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北海道経済 連載記事

2012年1月号

第22回 専門分野登録制度について

外科・内科・精神科……。活動のエリアが明確な医師と異なり、弁護士はどんな裁判が得意なのか、素人の目からはわかりにくい。今回の辛口法律放談は、弁護士の専門分野をめぐって導入が検討されている新しい制度について。(聞き手=北海道経済編集部)

弁護士の仕事をしていると、しばしば「専門は何ですか?」と尋ねられることがあります。私は、弁護士登録10年程度ですし、民事・刑事の幅広い分野を取り扱いたいし、実際、取り扱っているつもりなので、専門を問われると「専門と言えるほどのものは、ありませんが、依頼されれば、何でも取り扱います」と答えることにしています。

地方都市で登録している弁護士は「オールラウンドプレイヤー」として活動している人が多いです。東京・大阪等には海運、著作権、特許など、狭い分野に限定して活躍している弁護士もいますが、彼らの大半は企業や、その分野に特化した法律事務所に所属しており、一般の方からの相談に乗ることは皆無と言っていいでしょう。

相談者としては、依頼相手の弁護士の能力次第で権益が大きく左右されるのですから、その弁護士がどのような分野に強いのかを知りたいという気持ちもわかります。離婚についての相談なら、会社の民事再生に詳しい弁護士ではなく、離婚裁判に強い弁護士を探すのは当然です。

このようなニーズに応えて、日本弁護士連合会の業務改革委員会で現在、弁護士の専門分野登録制度の導入に向けた準備が進められています。本年11月下旬現在、各地の弁護士会から意見を集約しているところです。

これまでに明らかにされた構想によれば、まずは▽離婚・親権▽相続・遺言▽交通事故▽医療過誤▽労働問題の5分野について、一定の条件を満たした弁護士が専門分野を登録することができるようになります。刑事、企業倒産、過払い金など他の分野についての登録は先送りされました。この分野は、弁護士ならば誰でも取り扱うことが当然と考えられているからです。

登録の要件ですが、実務経験が3年以上で、3年間の処理件数が10件以上(医療過誤については5年間で3件以上、労働問題については3年間で5件以上)あること、日弁連がインターネットを通じて行う研修を2年間で10コマ、20時間以上受講していることの3つです。

弁護士が何らかの形で得意分野を表明するのは自由ですが、「専門」という言葉を使うべきではないと私は考えています。例えば、相続を「専門分野」と称する弁護士がいれば、一般市民の方は相続分野で何十年という経験を持ち、相続に詳しい大学法学部の教授に匹敵する知識を備えている弁護士を想定するのではないでしょうか。しかし、日弁連が示している専門分野登録要件は、そのようなものにはほど遠く、せいぜい、平均的な弁護士よりは、興味や関心があることを示すに過ぎません。当然、専門分野登録弁護士に依頼しても裁判で有利になるとは限りません。

公益的な色彩の強い日弁連が中心となり、専門分野登録制度を整えることにも問題があります。弁護士が自称する専門分野に、公的なお墨付きが与えられたと考える人がいると思われるためです。

医師については専門医の制度が整えられていますが、彼らは医師免許を取得したあとも長い間、大学病院で研修を積んだり、学会に出席したりして必要な知識を蓄積していきます。弁護士の世界にも類似した制度を導入するなら、それに見合ったしっかりした養成制度を整える必要があるでしょう。(談)