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北海道経済 連載記事

2011年12月号

第21回 「ゼロワン地域」は解消するが…

今年中に弁護士の「ゼロワン地域」が解消することになった。今回の辛口法律放談は、それでも残る地域間の「司法格差」について考える。(聞き手=北海道経済編集部)

今年12月18日、紋別に新しい弁護士事務所がオープンします。現在、旭川地方裁判所紋別支部の管内には弁護士事務所がひとつしかありませんが、新事務所の開設により、地裁支部あたりの弁護士がゼロまたは1人の地域、いわゆる「ゼロワン地域」は解消します。

1993年の時点で、ゼロワン地域は全国に74ヵ所ありました。日本弁護士連合会が、ひまわり基金を通じ法律事務所を司法過疎地に設立したり、経済的な支援制度を通じて司法過疎地での開業を後押したりした結果、08年にまずゼロ地域が解消。それから3年後の今年、ワン地域もなくなります。ちなみに道北では稚内、留萌、名寄、紋別にもひまわり基金の法律事務所が設立されており、紋別で新設される事務所もひまわり基金系です。

しかし、これで地域的な格差がなくなったわけではありません。旭川地裁は、稚内、留萌、名寄、紋別に支部を置いていますが、支部で法廷が開かれる日(開廷日と言います)は、月に3日間だけです。支部の場合、月に3日しかない開廷日では、代理人である弁護士をはじめとする関係者間のスケジュール調整が困難となるため、翌々月の開廷日に持ち越されるといったことがたびたび起こります。概して、支部では、裁判が長期化する傾向にあります。また、刑事裁判では、開廷日が月に3日間しかないため、期日が月1回しか開かれず、未決囚の拘禁期間も長引く傾向にあります。

支部での開廷日がこれほど少ない理由は、事件の絶対数が少ないため、予算がつかず、裁判所職員も少人数とされていることにあります。旭川弁護士会では裁判所との定期的な協議のなかで改善を申し入れていますが、厳しい財政事情のため、開廷日が増える気配はありません。それどころか、簡易裁判所などは統廃合の危機に瀕しているのが現実であり、本庁と支部の格差が縮小するには至っていません。

いったんは解消したゼロワン地域が、再び出現させないための対策も必要です。ここ数年は消費者金融業者に対する過払い金訴訟で、地方でも弁護士へのニーズが高まっているという事情がありましたが、過払い金訴訟が一段落すれば、弁護士の仕事が減るのは避けられません。もともと都市部ほど経済活動が活発でなく、弁護士の仕事の少ない地方で、法律事務所を維持するためには、何らかの支援策が必要かもしれません。

さて、日弁連では、司法過疎地域に定着する弁護士を養成する事務所を設立する場合には1500万円、そのような弁護士を養成する事務所には100万円を給付したり、司法過疎地域で独立開業する弁護士には350万円を貸し付けたりする制度を整備しています。

仮に、このような制度を利用した弁護士が、途中で翻意して司法過疎地域で開業するのをやめてしまったら、借りたお金を返済する必要があるでしょうか。類似した状況としては、看護師養成のための学資を貸し付けた病院が、看護師が一定期間その病院に勤務するという約定を果たさなかったことを理由に学資返還を求めて看護師を相手に裁判を起こしたものの、敗訴した判例があります。金銭貸付の対価として、一定期間、特定地での勤務を強いる前近代的な手法(お礼奉公)が問題視されたと思われます。職業選択の自由(憲法22条)に絡んだ難しい問題です。弁護士についても今後同じようなトラブルが発生するかもしれません。(談)