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北海道経済 連載記事

2011年11月号

第20回 得か損か 顧問弁護士

旭川でも「顧問弁護士」を抱えている企業や団体が少なくない。今回の「辛口法律放談」は、この顧問弁護士について考える。(聞き手=北海道経済編集部)

弁護士は通常、案件ごとに依頼を受けます。離婚、会社の破産、刑事裁判の弁護など、法的なサポートが必要な状況が生じたのちに、相談や弁護士との契約を経て、弁護士から必要な書類の作成や法廷での弁護など、実際のサポートが提供されることになります。

一方、現時点で、法的なサポートを必要としているかどうかを問わず「将来サポートが必要になれば一定の範囲内で提供しますよ」という内容の契約を結ぶことがあります。主に企業や団体、自治体などが弁護士と結ぶ「顧問弁護士」の契約がそれです(弁護士と顧問契約を結んでいる企業等を弁護士の側からは「顧問先」と呼んでいます)。通常、弁護士費用は相談料が時間あたりいくら、着手金が訴額の何%といったかたちで金額が設定されていますが、顧問弁護士としての報酬(顧問料)は定額制です。月3万円といったところが標準的な水準でしょう。顧問先を多数もっているのは、もっぱら弁護士経験20年以上のベテラン弁護士で、逆に若手弁護士で顧問先を多数もっている人はまれです。

顧問先の側からみれば、「いざという時のため、あらかじめ弁護士との関係を築いておいたほうが安心」という心理が働くのでしょう。一方、弁護士の側から言えば、有名企業の顧問弁護士を務めるのはステータスシンボルですし、仕事のあるないに関わらず毎月一定の収入が得られる顧問弁護士契約を多く結ぶことが、経営の安定につながることは確かです。そのため、弁護士の中は顧問先を確保するために躍起になる者もいて、怪しい会社の顧問を引き受けたりする者もいます。

単純に金銭的なことだけを考えた場合、顧問弁護士契約を結ぶことが「得」なのかどうかは疑問です。というのは、通常、顧問弁護士契約に含まれる法的なサービスの内容が▽法律行為(例・契約締結)に関する助言▽法律文書(例・契約書)作成に関する助言▽法律相談、の3つに限定されているからです。「助言」や「相談」ということは、顧問弁護士の法的なサポートは初歩的な段階に限定されるということを意味しています。契約締結に本格的に弁護士が関与したり、弁護士が契約書作成を請け負ったり、調停や裁判に弁護士が関わったりする場合は、顧問弁護士契約の枠外の行為となりますから、新たに弁護士との契約を結ぶ必要がありますし、別途の弁護士費用も発生します。

顧問契約の枠外の弁護士費用については、顧問弁護士契約を結んでいれば通常の2~3割引としている弁護士が多いようですが、それでもよほど多くの法的な問題やリスクを抱えている企業でなければ、顧問弁護士契約が割安になることはまれでしょう。

弁護士業界の状況の変化も、このしくみに影響を与えています。弁護士の絶対数が少なかった昔なら、あらかじめ「味方」を確保しておくことにも意味がありました。弁護士の数が大幅に増えた現在では、その意味も薄れています。今後、顧問料は値下がりが進み、いずれは無料で顧問を引き受ける弁護士が登場するだろうと私はみています。

しばしば、裁判では到底認められそうもない強硬な要求が、弁護士を差出人とする内容証明で送りつけられることがあります。顧問弁護士になった結果、顧問先から突きつけられた無理難題を断れない弁護士もいるようです。(談)