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北海道経済 連載記事

2026年5月号

第194回 刑事弁護の現実

裁判ドラマではしばしば、主役の弁護士が自ら決定的な証拠を発見して法廷で検察側に突きつけ、大逆転で無罪判決を勝ち取るが、現実の裁判は甘くない。今回は刑事弁護の厳しい現実について。(聞き手=本誌編集部)

刑事裁判における弁護士の仕事は、被告人が起訴状記載の犯罪事実を否認するか、認めるかで大きく異なります。前者は「否認事件」、後者は「自白事件」と呼ばれます。

警察・検察のような強力な捜査能力を弁護人は持たず、裁判ドラマのように弁護士が自ら新証拠を発見するのはほとんど不可能です。このため否認事件にあっては、検察側が被害者や関係者からの聴取をもとに作成し、裁判の証拠として請求する供述調書等の書面の矛盾点を明らかにすることが弁護人の主要な役割となります。

弁護人は証拠請求された書面ごとに同意するか不同意かを表明します。同意の場合は証拠として採用され、判決の内容を左右します。不同意の場合、書面はすぐには採用されず、被害者や目撃者が法廷に呼ばれて検察からの尋問、弁護人からの反対尋問を受けることになります。反対尋問で弁護人は供述内容に矛盾があるのではないか、警察や検察から誘導された可能性などを追及します。無罪判決は稀であり、否認事件を含め、大半の刑事裁判で有罪判決が言い渡されているのが現実です。とはいえ、完全無罪ではなくても一部無罪や強盗が窃盗の限度で認定される等の縮小認定もあり、それもまた勝訴と言えます。

一方、自白事件では、犯罪事実を認める一方で、被害者との示談をまとめることが重要です。同じ有罪判決でも、被害者との示談が成立しているかどうかは量刑に影響し、執行猶予付きの判決や刑期の短縮につながることがあります。自白事件においては勝訴と言えます。どんな犯罪でも、示談するには加害者側が誠意を示す必要があります。そのために金銭的補償は避けられません。財産犯の場合、被害者の損失を金銭で埋め合わせることができますから、金さえ用意できれば示談は比較的容易です。他方、生命や身体に対する犯罪、特に性犯罪の場合、被害者に金銭では測れない深い心の傷を与えていることから、金額にかかわらず示談を拒否される場合が大半です。これが現実なのに、性犯罪の被告人やその家族から「示談金は一切、用意できないが、遠方の被害者と示談をまとめてくれ」と依頼されたこともあります。せめて家族に同行して一緒に頭を下げて謝罪してくださいとお願いしたら、「それはいやだ」と拒否されました。これでは示談がまとまるはずもなく、かえって被害者の怒りを買います。

一方で「金銭の問題ではない」と示談を拒否した被害者から、しばらく経って「やはり示談に応じたい」と連絡が来ることがあります。すでに有罪判決が確定している元被告人にとって示談は意味がなく、私も弁護人の立場にないため交渉する権限がありません。結局、加害者から誠意を受け取る方法は金銭的補償が中心となるのですから、被害者も後悔しないよう、示談を受け入れるかどうか、冷静な検討が必要ではないかと思います。

弁護人にはもう一つ、ドラマでは紹介されない地味な仕事があります。「自宅にいる猫に水とエサを与えてくれ」「近所の人に犬の世話を頼んでくれ」など、裁判とは関係のない被告人の身の回りの問題の解決です。被告人が一人暮らしの場合、身柄の拘束で猫や犬が死ぬかもしれず、断るわけにはいきません。