北海道経済 連載記事
2025年12月号
第189回 当番弁護士の担い手不足
弁護士を依頼する金銭的な余裕がない人が犯罪の容疑で逮捕された時、勾留決定前から法的なサポートを行うのが当番弁護士制度。引き受ける弁護士の減少で、制度の存続が困難になる恐れがある。(聞き手=本誌編集部)
先日、朝日新聞が当番弁護士の不足に関する記事を掲載しました。全国的に引き受ける人が減少していますが、エリアが広い旭川弁護士会は減少がとくに深刻な地域として紹介されていました。国選弁護人制度は、被疑者ないし被告人が、資力不足で弁護士を依頼することができない場合、国が費用を負担して弁護人を付ける制度です。勾留されてから起訴までを担当する被疑者国選弁護人制度と、起訴されてから担当する被告人国選弁護人制度に分かれます。
問題は、その前の段階です。逮捕され、勾留決定されておらず、弁護人がまだ選任されていない段階で、警察の取り調べの中で行った不用意な供述が、裁判でその人に不利な証拠になる可能性があります。この段階でも逮捕された人が自ら費用を負担して弁護士の協力を求めることはできるのですが、資力のない人は弁護士からのサポートが得られません。そこで、逮捕されてから勾留決定までの段階でも弁護士から適切なサポートを受けられるのが当番弁護士制度の趣旨です。
国選弁護人制度が文字通り国の制度であり、選任された弁護士の報酬がほぼ国費で負担されるのに対して、当番弁護士制度は各地の弁護士会が運営している制度で、報酬は決して高くありません。旭川弁護士会では旭川市内と市外について、登録した人の中から「主待機」と「副待機」のリストに記載されます(市外当番の平日の副待機は、もっぱら旭川地裁の支部に設置された公設事務所の弁護士が担当します)。
当番弁護士は要請があってから24時間以内に接見するのが基本的なルールです。市内の当番は、待機日が2日間なのに対し、市外の当番は土日が副待機、それに続く1週間が主待機というのが基本的なルールで、待機日は9日間に及び、その間に要請があれば遠くの警察署までクルマを走らせなければなりません。稚内なら往路3時間半、接見後の帰路も3時間半がかかり、1日がかりの仕事となります。冬季の運転には危険も伴います。
また、待機とは要請に備えて待っているとの意味ですから、実際に要請があるとは限りません。要請がなければ報酬も「0円」です。それでもこの間、待機しなければならないため、出張や旅行の予定を入れられず、非常に不自由な思いをします。
こうした状況の下、当番弁護士を引き受ける人が旭川弁護士会でも減っています。現在、旭川弁護士会には市内に本拠を置く人だけで66人が所属していますが、およそ1ヵ月に1回のペースで市内当番が巡ってきますから、登録しているのは半分以下という計算になります。報酬が低廉な上、待機日に拘束され要請がなければ無報酬となること、以前は登録していた人が、弁護士会の他の職務に付いて、多忙を理由に登録をやめ、その後は戻ってこないことが多いのが、人数の減少の理由になっているように思います。
現在は限られた人数で何とか制度を回していますが、今後も人数が減り続け、登録者の負担が重くなるようであれば、しくみを根本から見直す必要があるのではないかと思います。

