北海道経済 連載記事
2025年11月号
第188回 有責配偶者からの離婚請求
夫婦のうち浮気をした方が、離婚を求めるのはわがまま、身勝手と考えられがち。実際、裁判で有責配偶者からの離婚請求が認められることはなかったが、現在は一定の条件のもとで認められるようになっている。今回の法律放談は、有責配偶者からの離婚請求について。 (聞き手=本誌編集部)
離婚については一方配偶者に有責行為がある場合に離婚を認める「有責主義」と、婚姻関係が破綻している場合に離婚を認める「破綻主義」があり、現行民法は後者を採用していると言われています。有責配偶者からの離婚請求については、「有責主義」からはもちろん、「破綻主義」からでも認められませんでした。浮気をして勝手に出て行く、他方配偶者を追い出すなどして家庭崩壊させた者が、離婚したいと考えて、離婚請求することは、あまりにわがまま、身勝手・人道に反するからです。
実際、戦後の昭和時代は、不倫をはじめとする家庭不和の原因を作った方(有責配偶者)が離婚を求めても、裁判所は認めませんでした。著名なのが昭和27年2月29日に最高裁が言い渡した、いわゆる「踏んだり蹴ったり」判決です。(夫の請求は)「夫が勝手に情婦を持ち、そのため妻と同居できないからこれを追い出すということに帰着するものであって、もしかかる請求が是認されるなら、妻は俗にいう踏んだり蹴ったりである」とのユニークな表現も盛り込まれています。
状況が変わったのは昭和62年9月2日に最高裁が有責配偶者の請求する離婚について新たな判断を示してからです。最高裁は①相当の長期間別居している②夫婦の間に未成熟子がいない③相手方配偶者が離婚によって極めて苛酷な状態におかれる等、著しく社会正義に反する特段の事情がない、の3要件がそろえば、有責配偶者からの請求であるからといって離婚が許されないとすることはできないとの判断を示し、東京高裁に差し戻しました。平成元年11月22日、東京高裁が扶養的財産分与と慰謝料合計2500万円を支払うよう夫に命じて、離婚を認めましたが、妻は上告し、上告審でようやく和解して離婚が成立したもので、それまでに別居は約40年間に達しました。
昭和62年の判決で最高裁が示した、たとえ有責配偶者が求めたものだとしても、婚姻関係がすでに破綻している場合には一定の条件の下で離婚を認めるべきとの考え方は「破綻主義」の考え方を進めたものと言えます。
それから時が経過し、前記3要件がそろわなくても諸事情を考慮し離婚が認められるようになっています。長期間の別居の目安は10年ですが、離婚請求された配偶者にも一定の有責性がある場合や経済的補償を十分に行った場合は、別居期間10年未満でも有責配偶者からの離婚請求が認められることがあります。別居6年ですが、財産分与として自宅を提供した事例で離婚を認めた判決、浮気した夫を妻が自宅の鍵を取り替えて自宅から締め出して別居が開始した事例で、別居1年半で離婚を認めた判決、変わったところでは、フランス人妻が帰国して不倫した事例で、帰国には夫にも原因がある、フランス人は自由奔放、不倫は文化としてフランス人妻からの離婚請求を認めた判決があります。
私が過去に担当した事件では、有責の夫が高額な慰謝料を提示しても、妻が頑なに離婚を拒否し、未成熟子がおり、その時点で有責の夫が諦めたため、離婚が成立せず、二重生活を続行した事例があります。「破綻主義」に沿って、今なら離婚請求が認められるかもしれません。

