しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第187回 あきらめず司法試験合格?

北海道経済 連載記事

2025年10月号

第187回 あきらめず司法試験合格?

司法制度改革にもかかわらず、昔も今も司法試験は狭き門。今回は小林史人弁護士が自らの長い挑戦の歴史を振り返る。 (聞き手=本誌編集部)

東大法学部の息子が、今年も司法試験の予備試験に挑戦しました。昨年に続いて7月の短答式試験(マークシート方式)に合格し、9月6・7日に論文式試験に挑戦しました。論文式にも合格すれば、最後の関門である口述試験を経て、司法試験に進みます。予備試験は大変な難関で、予備試験合格者の9割以上は司法試験に合格します。これは「正規」のルートである法科大学院卒業者の司法試験合格率、約6割を上回っています。

息子の挑戦を見ていると、自分の旧司法試験受験を思い出します。

私は中央大学4年の少し前から司法試験の受験勉強を始めました。最初は気持ちも新鮮で張り切っており、長時間の勉強も全く苦になりませんでした。旧司法試験は現在の予備試験とよく似ており、短答式に合格しなければ論文式に進めません。初挑戦では短答式に合格できなかったものの、それは当然の結果であり、その後も最初と同じ気持ちで1年間勉強しました。ところが2回目の短答式も合格できず、このあたりから危機感を抱きました。必死で勉強したものの、3回目もやはり短答式で落ちました。短答式すら合格できず、最終合格は夢のまた夢、月よりも遠いと感じるようになり、先が全く見えない状態となりました。生活も乱れ始め、夜に管理人のアルバイトをしながら勉強し、バイト明けに開店からパチンコに行き、イライラしながら昼頃まで打ち、帰宅して寝て、起きてアルバイトないし勉強という、昼夜逆転の生活をした時期もありました。「石の上にも3年」という言葉がありますが、私の集中力が持ったのは2年あまりで、3年目は「永遠に最終合格できない」との不安から、受験に疑問を感じ、勉強に意欲を欠く無気力状態でした。

ところが、「これでダメならあきらめよう」と開き直って臨んだ4回目の短答式は合格でした。論文式は不合格でしたが、短答式合格で少し先が見え、意欲をもって勉強できるようになりました。

とはいえ、論文式のハードルは高く、周囲の受験仲間が少しずつ合格していくと、自分だけ取り残される思いでした。30歳を超えてからの不合格は堪えました。同年代の仲間の中には、司法試験をあきらめて就職した人もいます。私も就職の道を選んでいれば、金融系に進んでいたかもしれません。そうなれば、後の金融恐慌で運命は大きく変わっていたでしょう。司法試験受験の選択は、現時点で正しく、まさに「塞翁が馬」です。

私があきらめなかったのは、論文式の結果通知で不合格者の中では上位におり、順当にいけば次年度合格する位置に何年もいたからです。「次は順番が回ってくる」との希望がありました。

司法試験に合格した時、私は33歳になっていました。長年の苦労が報われ、ほっとしましたが、うれしさという点では短答式に初合格した時の方が上でした。司法修習同期には私より年上の人もいました。当時は合格者の平均年齢は約29歳で十数年の浪人も「ざら」でした。

令和5年の予備試験受験者は1万3000人余り。このうち60歳以上が1267人でした(合格者5人)。私と同じころにチャレンジを始めて、夢をあきらめず、現在も受験しつづけている人が含まれているはずです。