北海道経済 連載記事
2025年9月号
第186回 共同親権導入後も状況同じ?
昨年、社会の注目を集めたのが民法改正。これまでは「単独親権」が大原則だったが、一定の条件の下で離婚した夫婦が「共同親権」を持つ制度が新たに導入されることになった。過去に親権を失った人は状況の変化に期待するが、小林史人弁護士は大きな変化はないと予想している。(聞き手=本誌編集部)
親族や相続に関する調停や裁判が行われるのが家庭裁判所です。旭川では裁判所の庁舎の2階が家庭裁判所です。相続は、「争族」の字が当てられるほど、相続トラブルは激化しやすいのですが、結局は、お金の分配の問題なので、時間はかかっても当事者同士が裁判所の和解案・判断に納得して決着がつくことが多いです。親族に関する調停・裁判、とくに離婚事件は、当事者が夫婦だけならともかく、子どもがいて親権をめぐる争いになると紛争が激化することがあります。
現状、子どもの親権、とくに親権の一部である監護権(子供と同居し、身の回りの世話や教育を行う権利のこと)を巡る争いでは、子どもと同居している親や、子どもを連れて出て行った親が有利です。その親にDV歴があるなど特殊な状況を除けば、裁判所は基本、同居中の親に監護権を与えます。
裁判所のこうした判断は、子どもと同居していない親(非監護親)に就いた弁護士が懸命にできる限りの主張立証活動をしても、まず変わりません。非監護親は到底納得せず、不満が増大します。この場合の弁護士は、非監護親に対して裁判所の判断を受け入れてほしいと説得する非常につらい役回りとなります。非監護親が弁護士に依頼することは費用の無駄ではないかとさえ思います。
現行の民法には、離婚後の親権を父母どちらか一方が持つ(単独親権)という大原則があります。現実には大部分のケースで父親が親権を失います。しかし昨年の民法改正で、離婚後も父母の両方が親権を持つ「共同親権」の制度が初めて導入されました。2026年5月24日までの施行が予定されています。
離婚する父母が共同親権を持つのは、離婚に向けた協議の中で、双方がそれを望む場合です。離婚協議の中で親権を巡る対立がある場合には、裁判所が子の利益を考え、父母どちらかに単独親権を与えるのか、または共同親権とするのかを決めます。
すでに離婚が成立して単独親権となっている場合でも、改正民法の施行後には共同親権への変更を求めて裁判所に審判を申し立てることが、制度上は可能になります。親権を失った多くの親が共同親権を目指して申し立てを行うことになるかもしれません。
しかし、状況が大きく変わる可能性は低いのではないかと思います。親のどちらかが望まない共同親権を、裁判所がすんなりと認めることはないでしょう。共同親権になれば、転居、進学先の決定、重大な医療行為などには両親の合意が必要で、非監護親も関与できそうですが、法改正により同居している親(監護親)の権利も明記され、非監護親の関与は非常に限定的になると予想されます。同居している親が有利という状況は動かないでしょう。
妻(または夫)が子を連れて家を出ることで有利になり、民法改正によっても状況が変わらないとすれば、どうすれば良いのでしょうか。結局、出て行かれないよう夫婦円満に努めるしかありません。

