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北海道経済 連載記事

2024年7月号

第172回 ドラマ・映画の中の司法試験

朝ドラの「虎に翼」が注目を集めている。昭和初期からの女性の法曹界での奮闘を描き、堅苦しい場面があるにもかかわらず視聴率は好調。今回はこのドラマや司法試験・弁護士を取り上げた過去の作品に注目する。(聞き手=本誌編集部)

現在放送されているNHKの連続テレビ小説「虎に翼」は、戦前の女性弁護士が主人公です。朝ドラが女性弁護士をとりあげるのは、1996年放送の「ひまわり」に続いて28年ぶりです。

「ひまわり」は現代劇で松嶋菜々子さん演じるヒロインは、2度目の挑戦で司法試験に合格して弁護士となります。司法改革前の旧司法試験ではかなり早い合格ですが、その経緯は細かくは描かれず、合格後の司法修習や弁護士登録してからがドラマのストーリーの中心でした。なお、タイトルは弁護士バッジのモチーフであるひまわりの花にちなんでいます。

「ひまわり」の放送は、司法試験制度の改革が始まったころで、受験回数3回以内の人の優遇開始(96年)や試験科目の変更(00年)などがあり、また年間2万数千人程度だった受験者数がピークの4万5372人(2003年)に向けて上昇を始めたころでした。こうした動きのために弁護士への関心が高まっていたことが、ドラマの題材選びの背景にあったのかもしれません。

一方、「虎に翼」は、法曹界がまだ男の世界だった昭和初期、司法試験(当時は高等試験司法科)合格を目指した女性たちの苦労や奮闘を描いています。ヒロインは、日本初の女性弁護士のひとりであり、初の女性判事ともなった三淵嘉子氏がモデルです。ドラマに登場する人物やエピソードも、多くは実在の人物や史実をもとにして、登場人物の体験として描かれています。視聴率は好調なようですが、一般の視聴者にこうした堅くてシリアスな内容が今後も支持されるか心配です。

実は「男はつらいよ」でも司法試験受験生が寅さんの恋敵となる作品「男はつらいよ 寅次郎恋愛塾」(1985年、第35作)があります。平田満さん演じる司法浪人(東大卒?)が司法試験に挑戦するが、なかなか合格せず、樋口可南子さん演じる同じアパートの住人と恋に落ちます。法曹はあきらめて教師となりますが、最後はライバルのはずの寅さんがアドバイスして、恋を実らせます。山田洋次監督は東京大学法学部卒ですが、この作品では東大本郷キャンパスでのロケも行われました。

実際、今も昔も途中で法曹の道を断念し、別の道に進む人が多くいます。私は何とか合格して弁護士になることができましたが、あと一度落ちていたら、受験科目の変更のために刑事訴訟法の勉強をゼロから始めなければならず、弁護士にはなれていないかもしれません。

なお、「虎に翼」で描かれている通り、かつては女性にとって極めて狭き門だった法曹の世界ですが、2020年の時点で国内の弁護士の19%は女性です。女性は公務員志向が強いためか、検察官、裁判官の女性比率はさらに高く、それぞれ25%、23%です。受験勉強は女性の方が向いていると思われ、司法試験に合格者の29%を女性が占めるようになり、今後、女性受験者が増えれば、さらに女性の比率は上昇しそうです。法廷で相手方の弁護士、検察官、裁判官に女性が含まれていることも珍しくなくなり、そのことをとくに意識することもなくなりました。