しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第171回 松田聖子さんが中央大学卒業

北海道経済 連載記事

2024年6月号

第171回 松田聖子さんが中央大学卒業

小林史人弁護士は日頃の弁護士活動と並行して、母校・中央大学の通信教育課程の学生を指導している。先日、松田聖子さんが中央大の通信教育課程を卒業したとのニュースが注目を集めた。今回の法律放談は「中央大通信教育課程」について。(聞き手=本誌編集部)

先日、歌手の松田聖子さんが中央大学法学部通信教育課程を卒業したとの報道がありました。高校卒業時、芸能活動に忙しかった松田さんは進学することができなかったものの、50代になってから入学、芸能活動の合間に通信教育で法律を学び、4年間で卒業したとのことです。

芸能人の大学入学と聞けば、早稲田大等の大学が思い浮かびます。芸能人の入学により大学の知名度が上がり、志願者が増え、いわば「人寄せパンダ」の役割を果たしたりすることがありますが、松田さんについては卒業するまで中央大に在籍していることが全く知られていませんでしたから、そのような意味合いはなく、真剣に法律を学んだのでしょう。とはいえ、この報道のおかげで中央大の知名度は上がったのではないかと思います。

通信制の大学はいくつもありますが、中大の通信教育課程はまじめに勉強しなければ単位が取れない反面、熱心な指導で学生をサポートしているとの定評があります。中大は昭和45年まで、21年連続、東京大をおさえて司法試験合格者数首位であり、年間150人前後が合格していました。その後も十数年間、東大と首位争い(中東戦争と呼ばれていた)しています。中大が首位の時代は、夜間部や通信教育課程の学生が合格者数底上げの役割を果たしていました。東大よりも合格者を輩出できた大きな理由です。

一般的に通信教育は郵便で教科書を受け取り、レポートや試験の答案を郵便で提出する形式で行われ、最近はインターネットの活用も行われています。一部の単位は教室で授業(スクーリング)を受けて取得しなければなりません。私は中大を卒業して弁護士になりましたが、十数年前から、旭川市内で行われるスクーリングで民法、商法、刑法、民訴法などを教えています。憲法や教養等、他の科目もあり、北海道教育大学の先生などが担当しています。

私の担当する学生は少人数で、最も多いときで7〜8人。年齢層は幅広く、30代の人も、もうすぐ定年の人もいます。かつて、私が担当していた学生が旧司法試験の択一試験に合格したことがあり、大したものだ思いました。

旭川弁護士会にも、働きながら大学の通信教育で単位を取って、受験資格を得て、司法試験に合格して弁護士になった苦労人が複数いました。炭鉱で働きながら司法試験に合格した人もいました。昔はどんな境遇でも、司法試験に合格して「一発逆転」に成功した人がそれなりにいたのです。学費が高価なロースクールを経て司法試験を受験する現在のルートでは、通信教育を利用しての「一発逆転」は困難になりました。もっともロースクールを経由せずに法曹になれる予備試験ルートで「一発逆転」は可能となっています。

法律を学ぶことは、法治国家の基礎を学ぶということであり、法治国家の対局にあるのが独裁国家や専制国家です。松田聖子さんの報道をきっかけに、通信教育課程の学生が増え、その中から予備試験ルートでの司法試験合格者が出ることを期待しています。