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北海道経済 連載記事

2024年4月号

第169回 私選弁護人と国選弁護人

地裁段階の刑事裁判のうち私選弁護人がついたのは約17%。大半は国選弁護人がついている。資力に関わらず公正な裁判を受けられるようにするしくみが国選弁護人制度だが、弁護士サイドからみても私選弁護人よりも国選弁護人の方がやりやすく、被疑者・被告人の利益のために活動しやすいという。(聞き手=本誌編集部)

刑事事件で逮捕された人には、その日の「当番弁護士」が接見に行き、その先の勾留決定、起訴などの見通しを説明します。勾留決定が下され、被疑者に私選弁護人を選任する資力がない場合は国選弁護人が選任されます。勾留決定されなくても起訴された場合は資力の無い被告人に国選弁護人が選任されます(資力によっては後日、国選弁護人の費用を請求されます)。

一連の説明を聞いた被疑者から「国選ではなく、私選の弁護人でお願いしたい。国選ではどこまで真剣に弁護してくれるのか疑問で、裁判で不利になる。私選なら真剣に弁護活動をしてくれるので裁判で有利になると思う」などと言われることがあります。

結論から言えば、被疑者が起訴された後、裁判で罪を認めるのなら、国選でも私選でも違いはないでしょう。犯罪の状況に応じて、他の事件とのバランスを取りながら、裁判官が罪の重さを決めます。そこには、弁護人が能力を発揮する余地はほとんどありません。一方、容疑を否認して裁判で争う気なら、弁護人の力量次第で判決は変わるかもしれず、私選で弁護士を雇いたい気持ちもわかりますが、弁護人が有能か否かは私選か国選かに対応する訳ではないので、どの弁護人が刑事事件に適切に対応してくれるのか、一般の人にはわかりにくいものです。

さて、私は刑事裁判なら国選で引き受けることにしています。国選なら手付金や報酬が回収不能になることがないためです。刑事裁判の弁護人は限られた時間で迅速に行動しなければ裁判で不利になってしまうため、被疑者・被告人が私選の費用を払う能力があるか慎重に調べる暇はありません。昔の話ですが、「あとで払うから」「家族が負担してくれる」といった被疑者の言葉を信じて弁護人を引き受けたものの、結局はただ働きで終わったケースが実際に何度もあります。仮に実刑判決が言い渡されれば、相手は刑務所に入ってしまうのですから、「弁護士費用の回収」はほぼ不可能となります。

外国や大都市圏では、裕福な人が刑事事件で起訴され、金に糸目をつけずに著名な弁護士を頼ることもあるのかもしれませんが、地方では、被疑者・被告人は基本的に裕福ではなく、貧困が窃盗などの犯罪の引き金になっており、国選が増える構造となっています。

私選だと被疑者・被告人が自分で弁護士費用を負担していることから、弁護人に無理難題をつきつけることも多々あります。「被害者と何とかして示談に持ち込め」「話せばわかるから取り下げてもらえ」「毎日接見に来て示談状況を報告しろ」といった要求がその一例ですが、執拗な示談の申し入れは被害者の感情を逆なですることがあり逆効果です。

刑事裁判で私は被告人の利益のために全力を尽くしますが、彼らの指示通りに動くことが必ずしも彼らの利益になるとは限りません。その意味でも、国選弁護人の方が被疑者・被告人の利益のために行動しやすく、弁護人しての力を発揮しやすいと思っています。