北海道経済 連載記事
2024年2月号
第167回 Dream(ドリーム)
司法試験制度の改革前には、何年も司法浪人生活を続けるのが一般的で、貴重な20歳代を司法試験受験に費やしたにもかかわらず、合格できない人も珍しくなかった。今回は寝ても覚めても受験勉強の生活の中で見た夢について。(聞き手=本誌編集部)
私は大学の入学試験を2回、旧制度の司法試験を11回、司法修習の修了試験を1回受けました(「第二回試験」と呼ばれる。ちなみに「第一回試験」は司法試験)。したがって、18歳から35歳までの17年間のうち14年はいわゆる「受験生」だったことになります。大半が司法試験の受験生でした。模試で下から3番目になり、合格は月よりも遠いと思いました。司法試験に合格することなど夢のまた夢でした。
その関係からか、寝ていても司法試験から逃れられず、変な夢を見ることがありました。今でも覚えている夢は、仲間たちと無人島に遊びに行くのですが、他の人は皆、船に乗って帰ってしまい、私一人無人島に取り残される夢。高校生のころ、古文で習った平家物語で島流しにされた一行のうち「俊寛」一人だけ許されず、島に取り残され「待ってくれ」と船に追いすがった場面を思い出し、俊寛の心情がよく理解できました。自分が心理的に追い込まれていることを改めて感じました。
私が何度も不合格を繰り返すため、家族全員が司法試験を受けることが家族会議で決まり、私は「受かるわけがないだろう」と高をくくっていたのですが、結果は両親と弟が一発合格して私だけが不合格となる夢。これほどみじめな思いはしたことがありません。目が覚めたときには、ホッとすると同時に「勘弁してくれ」と思いました。当時家族に無意識に抱いていた負い目が夢に現れたのかもしれません。
もう一つ、司法試験の結果が発表されたのですが、今回も私は不合格。ガッカリしていると「補欠合格」との通知が届いて大喜びする夢。もちろん、司法試験に補欠合格制度などないのですが、今まで見た夢の中もっともうれしい夢でした。しかし、夢から覚めて現実に戻り、しばらくガッカリして落ち込みました。
私は現実には35歳で弁護士登録し、もう20年以上活動しているわけですが、いまも司法試験が夢に出てきます。なぜか司法浪人に戻っていて、合格したはずだと疑問を感じながら受験準備を始める夢、「実はまだ合格していない。明日試験があるから来てくれ」と言われ、あわてて一夜漬けの勉強を開始する夢、更新試験があるので急いで勉強しなければならないが時間がないと慌てている夢などです(更新制度も現実には存在しません)。
合格してから長い歳月が経ったいまも夢を見るということは、当時の記憶がトラウマになっているのだと思います。
私は、合格圏に達してから、合格するまで6年ほどかかっており、運が良ければもう少し早く合格できたという思いがある一方で、合格した年は、運良くヤマが当たって合格できたとの思いもあります。再度受験してまた合格できるかといえば、そのような自信は全くありません。
法科大学院を中核とする現在の司法試験制度は合格率数%だった旧制度と異なり、合格率は約45%まで上昇しています。しかし、現行制度には受験回数制限(5回)があり、私の時代のように合格するまで5年でも10年でも挑戦を繰り返すというわけにはいきません。心理的なプレッシャーは、現行制度のほうが大きいのではないかと思います。