北海道経済 連載記事
2024年1月号
第166回 法テラス 追加費用めぐる疑問
資力が不足している人に裁判制度の門戸を広げた法テラス。今回は、法テラスを経由して事件を受任した弁護士に支払われる費用の加算などについて、小林史人弁護士が語る。(聞き手=本誌編集部)
法テラス(正式名称=日本司法支援センター)は2006年に設立され、道北地方では法テラス旭川(旭川市3条通9丁目TKフロンティアビル6階)が設けられています。裁判制度や弁護士のサービスをより身近に受けられるようにすることを目的に、情報提供、民事法律扶助、刑事弁護体制の整備、司法過疎対策などを行っています。
法テラスには専属の弁護士がおり(スタッフ弁護士・旭川は1人)、それ以外の弁護士も法テラスと契約・登録して、法テラスからの紹介で事件を受任しています。弁護士から見れば、法テラスは新たな顧客や事件を紹介してくれるしくみということになります。
法テラスは金銭事件、離婚事件、強制執行事件など、事件の種類ごとに標準的な費用を定めています。依頼者は分割払いでこれらの費用を払います(生活保護受給者などは、返済が猶予・免除されることがあります)。
ただ、この金額が安すぎる、弁護士が事件にかける時間と労力を考えれば割に合わないとの不満が、法テラス制度が導入されてから一貫して弁護士側に存在していました。このため、弁護士は処理が困難な事件については一定の上限までの加算や、出廷回数に応じた加算を事後的に法テラスに対して申請することができます。
申請が妥当なものかどうか、審査するのが審査委員で、私はこの審査委員を長年務めています。申請する弁護士はただ「困難な事件だった」と申告するだけでなく、具体的にどう困難だったのか、どんな苦労をしたのかを書面で報告しなければなりません。
しかし、このしくみが正当なのかどうか、疑問に思うこともしばしばです。処理に必要な時間やかかる手間は事件によって大きく異なり、比較的簡単な事件や困難な事件が存在します。しかし通常、弁護士は「この事件は簡単そうだから手付金や成功報酬を安く、この事件は難しそうだから高く設定しよう」などとは思わず、一定の料金体系のなかで金額を決めて受託しています。事前に、これはやっかいな事件になりそうだと思えば、その旨を事前に相手に伝えて、料金を高めに設定することはあるかもしれませんが、受任後に追加請求するのは例外的です。
法テラスが事後的に加算を認めた費用は、最終的に依頼者が負担するものです。困難加算について承諾する依頼者がほとんどですが、依頼者はもともと経済的な事情のために法テラスを利用しており、加算分を自分が負担することを本当に理解・納得した上で費用の加算に同意しているのか疑問です。また、法テラスの約定には事後的な加算についても規定がありますが、利用者はチェックしていないと思います。
法テラスを経由して事件を受任すると、手付金や成功報酬が安いため、想定外の時間的、金銭的コストを吸収する余裕がなく、予想外に処理が難しかった場合にプラスアルファを請求するしくみが必要という意見に私も従って審査しています。しかしながら、直接依頼者から受任する場合にはやらないことを、法テラス経由の場合は法テラスに加算を申請して、法テラスに加算決定してもらうのは、何かすっきりしません。
こうした疑問を抱きつつ、法テラスの審査委員として審査しています。