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北海道経済 連載記事

2011年6月号

第15回 遺産相続をめぐるトラブル

「私が遺す財産でどうか家族(相続人)に幸せになってほしい」──そんな願いも空しく、遺産はしばしば相続人間の対立を引き起こす。今回の辛口法律放談は遺産相続について。(聞き手=北海道経済編集部)

残念なことですが、それまで仲が良かった家族が、遺産をめぐって激しく対立することがあります。相続人がどれだけの比率の遺産を相続できるのかは、相続人と故人の関係に応じて民法で規定されていますが、実際には多くの要素が絡み合い、トラブルが絶えません。

遺産をめぐる対立の論点は、①遺産の範囲と②分配の方法に大別することができます。①遺産の範囲とは、故人にどのような財産があったかということですが、隠し財産や生前贈与の有無をめぐって相続人が対立することがあります。その場合には、裁判で遺産の範囲を確定しなければなりません。

次に②分配の方法ですが、遺産をどのように分配するかの対立が相続人間で解決しない場合には、まず調停を行い、調停が調わない場合は審判で解決を図ることになります。

分配方法に関して対立軸になることが多いのは、寄与分と特別受益です。寄与分とは、相続人のうち故人の財産の維持・増加に貢献した人が法定相続分を超えて相続できる分です。これに対して特別受益とは、故人の生前に相続人が受けた特別の支援のことであり、相続分の前渡しとして計算されます。両者はある意味対立する概念で、たとえば一方が「私が親の世話をしたのだから寄与分をもらえるはずだ」と主張し、もう一方が「世話などしていない。親が生前、あなたに渡した財産は特別受益だ」と反論するケースがあります。

もうひとつの対立軸が遺贈(遺言)と遺留分です。遺言があれば、相続人のうちこの人は法定相続分より多く、この人は少なくと、相続分を増減させることが可能ですが、一方で遺留分(遺言の内容にかかわらず、相続できる比率=法定相続分の半分)も規定されていることから、これも紛争の原因になることがあります。

遺産に不動産、株式などが含まれている場合には、いったん現金化してから、相続分に応じて分配するのが最も単純です。しかし遺産に対する評価が相続人間で異なる場合、全員が納得するかたちで相続するのは困難でしょう。

このように、相続に関してはさまざまな点について相続人同士で対立し、事態が複雑化することもあります。とくに相続人の数が多い場合や、その一部と連絡がつかない場合には、意見を集約することも手続きを進めることも困難になり、相続が実現するまでに長い時間と手間がかかります。

自分の死後に、相続人が遺産をめぐって対立する状況を望んでいる人はいないでしょう。すっきりと遺産を分けるにはどうすればよいのでしょうか。

まずは、遺言状を作成しておくことです。もっとも、自分で作った遺言を引き出しの中にしまっておくだけでは、死後に発見されない可能性や、発見されてもその真偽や内容の妥当性をめぐって対立が生じることがあります。公正証書にしておくか、弁護士等に内容をチェックしてもらった上、遺言執行者に指定しておくべきでしょう。

遺言の内容も大切です。相続人のうち特定の人物だけの相続分を著しく増やす、または減らすような遺言は、親族間のトラブルの種になりがちです。遺産が相続人全員を幸せにする相続を考えたいものです。(談)