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北海道経済 連載記事

2011年5月号

第14回 薬害肝炎訴訟、疑問残る判決

旭川地裁で3月30日、薬害C型肝炎訴訟について、原告の請求を棄却し、その救済を否定する異例の判決が下された。今回の法律放談は、この判決に潜む問題点について。(聞き手=北海道経済編集部)

薬害C型肝炎訴訟とは、「フィブリノゲン」などの血液製剤を投与されてC型肝炎に感染した人達が、製薬会社や、危険性が明らかになったあとも製剤の承認を取り消すなどの処置を取らなかった国を相手に、全国各地で起こした裁判のことです。08年1月16日にC型肝炎ウイルス感染被害者救済に関する法律(以下「薬害C型肝炎被害者救済法」といいます。)が施行され、裁判所での判決の言い渡し・調停や和解の成立を条件に、感染者に給付金を支給するしくみが整えられました。上記法律の制定時は、製剤投与と感染結果が立証できれば、その間の因果関係については、国側は真剣に争ってこないのではないか、すなわち因果関係の立証が不十分でも給付金が支給されるのではないかと言われていました。

しかし、フタを空けてみると、国側は因果関係を争ってきたため、製剤投与を立証できても、投与後または並行して大量に輸血を受けた患者が、救済されないという事態が生じました。ウィルスを含んでいた血液が輸血されて感染した可能性があり、製剤投与と、感染結果との間の因果関係を立証できないためです。それでも、昨年8月に大阪地裁が「製剤投与が感染結果の原因であることと矛盾すると考えられる「特段の事情」がない限り製剤投与と感染結果との間の因果関係が認められる」との画期的な所見を示してからは、この所見に沿う形で原告に有利な和解が各地の薬害C型肝炎訴訟で散見されていました。

旭川地裁の下した結論は、大阪地裁の所見に従うとしながら、原告に投与された製剤の量が少ないこと、投与後に大量の輸血を受けていたこと、製剤投与から通常の潜伏期間とされる150日以内を超えて発症したこと等から、「輸血によって感染した蓋然性が高い」ので、「製剤投与が感染結果の原因であることと矛盾すると考えられる「特段の事情」がある」と認定して、原告の訴えを退けたのです。薬害C型肝炎訴訟で原告が敗訴するのは、道内では初めて、全国でも7例目です。

旭川地裁は、大阪地裁の所見を引用しつつも、輸血による感染の蓋然性(確からしさ)の高さが製剤投与と感染結果との間の因果関係を否定する「特段の事情」に該当すると判断しました。しかし、製剤投与後に大量の輸血が行われたとしても、製剤投与のために感染した可能性を完全に否定することはできません。また、潜伏期間には個人差があり、「150日」はひとつの説に過ぎません。

法律的なことを言えば、この裁判では、大阪地裁の所見に沿って判断する以上、被告(国)が、製剤投与と感染結果との間の因果関係不存在をはっきりと証明しなければ(本証)、裁判体は「特段の事情」を認定することはできないのに、因果関係真偽不明の程度の立証で(反証)、「特段の事情」を認定してしまいました。薬害C型肝炎被害者救済法の精神を無視するような、国にとり極めて有利な認定です。

私を含め15人の弁護士からなる原告の弁護団は、この判決は薬害C型肝炎被害者救済法の趣旨を逸脱した不当なものであると考えており、当然、控訴をします。大阪地裁が示した「特段の事情」の具体的内容が示されたのは、今回の旭川地裁での判決が初めてであるだけに、このまま、この不当判決が確定すれば、ほかの薬剤C型肝炎訴訟でも感染者の救済を後退させる可能性があり、影響が懸念されます。(談)