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北海道経済 連載記事

2021年2月号

第131回 法曹志望者支える「予備校」

司法試験合格を目指す人を今も昔も変わらず支えているのが「司法試験予備校」。今回の法律放談は、新しい法曹養成制度の下でますます繁盛しているように見える司法試験予備校に注目する。(聞き手=本誌編集部)

もともと大学の法学部は、司法試験合格のためのテクニックのようなものは教えず、法律ができるまでの歴史や、その背景にある思想、個々の教員の専門分野の法解釈を巡る学説など、試験には出てこないような内容、さらに学者になる人以外には役立たないことにも時間をかけていました。

大学内部で受験対策をサポートしていたのは、大学の教授や講師陣ではなく、学生有志が立ち上げた司法試験受験団体でした。私の母校である中央大学には「真法会」をはじめ、こうした受験団体がいくつもあり、団体OBの合格者がチューターとしてゼミを組んで後輩を指導したり、答案練習会などを行っていました。中央大学は昭和45年までは20年連続で司法試験合格者ランキング首位で、その後も東京大学と激しく首位争いをし(中東戦争)、やがて早稲田大学を加えた3強の時代が平成初期まで続きました。このころは、中央大学の合格者輩出にはこうした受験団体の力によるところが大きかったのです。

ところが、早稲田大学が台頭してきた時期から司法試験予備校を利用する学生が多くなってきました。予備校は司法試験対策に特化しており、効率良く勉強することができる上、学内の受験団体特有の雑務や人間関係がないことが理由です。私の場合、学内の受験団体の選抜試験で不合格となったため、必然的に予備校を利用していました。

また、司法試験は出題範囲が広く、ある程度ヤマが当たらなければ合格は望めなかったことから、予備校の情報収集力は重要でした。

予備校利用者が増加した状況に対応してか、早稲田大学が法職課程を設けて受験指導に力を入れて合格者を急増させ、遅れて中央大学も法職課程を設けて大学として受験指導に本腰を入れるようになりました(大学の予備校化)。

しかし、こうした受験指導の広がりは法学者などから「法曹志望者を画一化し、思考能力を奪う」といった批判を集め、2004年の法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度の導入につながりました。

新しい制度が始まってから16年が経った今、予想に反して司法試験予備校はますます大きな存在感を発揮しています。法曹になるには、①法科大学院を卒業した後で司法試験を受けるルートと、②予備試験を受けて法科大学院修了と同レベルの学識を持つと判定を受けた上で司法試験を受ける2つのルートがあるのですが、司法試験合格率は予備試験合格者の方が圧倒的に高くなっています。予備試験自体の合格率は3〜4%と非常に狭き門なのですが、予備試験受験者の多くは司法試験予備校に通っており、ある塾は「2019年の予備試験合格者の84%は当塾の受講生」と宣伝しています。難関の法科大学院に入るために予備校に通っている人も多くいます。

弁護士の数が増えすぎたことから、司法試験合格者数は抑制されています。激しい競争を勝ち抜くためのテクニックと合格に必要な範囲に絞って授業をしている司法試験予備校を利用して法曹になる人の比率が低下することは、今後もなさそうです。