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北海道経済 連載記事

2021年1月号

第130回 居眠りをどう防ぐか

学生時代はもちろんのこと、社会人になってからも、勤務時間中に居眠りしそうになった経験は誰でもあるはず。とくに長時間にわたり人の話を聞く仕事は、よく睡魔に襲われる。今回の法律放談は、居眠りの防ぎ方に注目する。(聞き手=本誌編集部)

先日、ある人からこんな話を聞きました。

「裁判の傍聴に行ったら、3人いる裁判官のうち真ん中の1人が見るからに眠そうだった。天井を見つめていると思ったら目をつぶったまま動かなくなり、しばらくして驚いたように目を見開いたこともあった。こんなことで公正な裁判ができるのかどうか疑問だ」

私はその場にいなかったので、裁判官がどんな状態だったのか断定はできませんが、裁判官の席に座っていると、睡魔に襲われることがあるのは確かです。

私は弁護士ですが、司法修習生時代に裁判官席の隣席から裁判を傍聴したことがあります。その際には眠たくなることがありました。例えば民事裁判で証人や裁判の当事者の尋問が行われる期日の場合、裁判官は何も言わず、証言を数十分間にわたり一方的に聞いている時間帯があります。昼食後だったり、法廷の温度がちょうど良いと、裁判官も眠たくなることがあるでしょう。

司法修習生時代、裁判官に睡魔への対処法を尋ねたことがあります。裁判官の答えは、「法廷の前は食事を取らない」「画鋲で自分の太ももを刺す」というものでした。それくらいしないと、人間の根源的な欲求である眠気には勝てないということでしょう。

裁判での発言はすべて記録されています。法廷で誰が何を話したのかはあとで文字を読めばわかりますから、居眠りが裁判の公平性に影響することはないでしょうが、裁かれる側、とくに敗訴した側にとっては納得がいかないでしょう。

私も弁護士としての業務中に、眠気を感じることがあります。もちろん、法廷で尋問している時や相手方とやりとりしている時は大丈夫ですが、相手方の尋問中や法廷外での法律相談や刑事被告人との接見中に眠たくなることもあります。たとえば同じことを繰り返し話すような人、争点と関係のないことを長々と話す人、のんびりと話す人等、眠気を誘うタイプの人の話を聞いている時は要注意です。

仕事中、勉強中の眠気をコーヒーやガムで吹き飛ばす人もいるでしょうが、法廷は飲食禁止なのでこの方法は使えません。私は体の一カ所に力を入れたり、目立たないように肩を回したりしていますが、効果はイマイチです。十数秒瞼を閉じる方法が効果があると思いますが、本当に眠ってしまう恐れがあります。

裁判官は多数の案件を抱えていて激務なので、裁判中に眠気を覚えても仕方ないとみる向きもあります。しかし、裁判において証拠の収集と提出は当事者の責任とされており、裁判官は当事者の提出した証拠を自由に評価して事実認定をします。弁護士は当事者代理人として、証拠を収集しますが、これに時間と労力がかかります。今のご時世、各種情報の開示には困難が伴い、専門家の協力を得て意見書を準備することは容易ではありません。当事者が苦労して用意した証拠を裁判官は自由に評価して、文字通り「ジャッジ」して勝敗を決めるだけで、物理的に負担が重いとは思えません。精神的な意味でも、裁判官の負担は弁護士と比べて重くはないはずです。