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北海道経済 連載記事

2020年12月号

第129回 学術会議人選、4年前の前兆

いま新聞紙面をにぎわしている「日本学術会議」の会員任命問題。2017年、最高裁裁判官の人選を巡ってその「前兆」とも言える出来事があった。今回の法律放談は最高裁裁判官の「弁護士枠」に注目する。(聞き手=本誌編集部)

日本の司法制度の最高機関である最高裁判所には、15人の裁判官がいます(1人が最高裁長官、14人が最高裁判事)。15人すべてが、司法試験合格後に地方裁判所の裁判官からキャリアをスタートさせて、少しずつ出世し、最後に最高裁に達するわけではありません。最高裁裁判官には裁判官、弁護士、検察官、法学者、行政官の枠が設けられていて、現在はそれぞれの枠から6人、4人、2人、1人、2人が選ばれています。多様な見解を法律に関する最終的な判断に反映するのがこうしたしくみの狙いだと言われています。このうち弁護士枠については、日本弁護士連合会が最高裁を通じて示す推薦リストの中から、内閣が選択して任命する慣例が長年続いていました。

なお、最高裁の裁判官とは別に、弁護士の中から弁護士会からの推薦や選考を経て裁判官を選ぶ「弁護士任官」のしくみがありますが、非常に狭き門となっており、裁判官全体に占める弁護士出身者の数は2%未満にとどまっています。

さて、あまり大きなニュースにはならなかったのですが、2017年に行われた最高裁判事の人選について、波乱がありました。定年退官する弁護士枠の判事1人の後任として新たに任命された人物は、大学教授や学会代表を務めた刑法学の大家で、日弁連からの推薦リストには名前がなく、弁護士登録してから1年も経っていませんでした。首相官邸の幹部が推薦リストの人物を嫌ったことが異例の人事につながったとみられています。日弁連では会長が理事会で「慣例が破られたことは残念」などと語っただけで、抗議声明などは発表しませんでした。登録1年未満とはいえ、弁護士であることに間違いはなく、強い反対を唱えるわけにはいかなかったのでしょう。

憲法によれば、最高裁判事は内閣が任命、天皇が認証することになっており、弁護士枠が正式な制度として法律で定められているわけではありません。この人選が違法とは言えませんが、一方で、歴代の政権が長年にわたり日弁連からの推薦リストの中から最高裁判事を選んできたのも事実です。

いま、同様の出来事が注目を集めています。日本学術会議会員の任命について、菅内閣が同会議の提出した推薦リストの中から6人を除外した問題です。どちらも推薦リストを内閣が尊重するという前例はありましたが、法律では内閣が任命することになっています。安倍内閣は最高裁裁判官、菅内閣は学術会議会員について、前例を踏襲せずに独自の人選を行ったわけです。なぜリストをそのまま受け入れなかったのか、明確な理由説明が行われていない点も同じです。

日本学術会議の一件についてはさまざまな学会から内閣を批判する声が上がり、国会では野党が追及を続けています。内閣による人選は当然との声もありますが、日弁連が2017年に弁護士枠の件で強く抗議していたら、菅内閣の判断はまた違うものになっていたかもしれません。