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北海道経済 連載記事

2020年11月号

第128回 弁護人が解任される時

弁護士は、裁判などで相手方と戦う依頼人を助けてくれる存在だが、依頼人が弁護士を解任したり、弁護士の方から辞任したりすることがある。今回の法律放談は弁護士の解任・辞任に注目する。(聞き手=本誌編集部)

公職選挙法違反(加重買収)の罪に問われて逮捕・起訴された衆議院議員の河井克行被告が、9月15日、6人の弁護人をすべて解任しました。公選法によれば加重買収の刑罰は「4年以下の懲役か禁錮、または100万円以下の罰金」であり、刑事訴訟法は懲役・禁固の上限が3年以上の事件は弁護人なしで審理できないと定めているため、新たな弁護人が選任されなければ裁判は開けず、審理の遅れは避けられません。選挙の効力に関わる訴訟は事件の受理から100日以内の判決を目指すことになっていますが、弁護人を新たに選任しなおすとすれば、100日以内の判決は困難だとみられています(同じ罪に問われた克行被告の妻、河井案里被告の裁判はこれまで併合して行われていましたが、案里被告の弁護人は解任されておらず、今後の裁判は分離して進められる見通しです)

克行被告が弁護人を解任したのは判決の引き延ばすのが狙いとの指摘がありますが、弁護人が一度交代したくらいでは、そのように断定することはできないでしょう。民法651条は「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」と定めており、依頼人には理由がなくても弁護士を解任する自由があります(ただし、解任により弁護人が被った損害を賠償する必要が生じる可能性もあります)。

実際、依頼人が弁護士を解任することは珍しいことではありません。私の経験では、勝訴ないし勝訴的和解見込みとなった段階で、はっきりした理由がないままに解任され、勝訴したり和解したりすれば、請求できたはずの報酬が得られなかったことがあります。一般的には途中解任の場合は、出来高制で、着手金の一部を払い戻しますが、先が見えた段階で一方的に解任された場合は、払い戻さないこともあります。 解任に準じることとして、判決後、相手方から控訴があった場合に控訴審での弁護を依頼してもらえなかったことがあります。一審がほぼ勝訴の場合には、腑に落ちないというか、あまり気持ちの良いものではありません。

相手方の弁護士が解任され、もしくは辞任して交代することもあります。ある調停事件では、調停開始後1年以上を経過した段階で相手方の弁護士が突然辞任し、続いて登場した弁護士が、新しい主張を展開し始めました。新しい主張といっても、前任の弁護士において主張可能だったが見送ったと思われる主張で、そのような主張が通る可能性は低いことを考え合わせれば、弁護士の交代と新たな主張の展開は引き延ばしが目的かもしれません。なぜ引き延ばすのかはわかりませんが。

解任とは逆に、弁護士の方から辞任することが多いのは債務整理関連の事件です。受任後、弁護士が作業を進めるには、依頼人に一定の作業や書類の提供などをしてもらわなければならないのですが、受任通知を債権者に送付するとそれまで依頼人に寄せられていた返済の催促が代理人である弁護人のもとで止まるようになり、依頼人はそれだけで安心してしまうのか、協力が得られないところか、まったく音信不通になってしまうことがあります。長期間、連絡が取れない状況が続くようだと、弁護士は代理人を辞任し、その旨を債権者に通知することになります。