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北海道経済 連載記事

2020年10月号

第127回 保釈制度の運用状況

「保釈制度」がニュースに登場する機会が増えている。国際企業のCEOや国会議員が保釈される一方で、窃盗や詐欺といった犯罪の被告人のうち保釈を求める人は少数派だという。今回の法律放談は保釈制度の現状に注目する。(聞き手=本誌編集部)

今年初めに保釈制度に注目が集まったのは、日産の最高経営責任者だったカルロス・ゴーン被告の海外逃亡がきっかけでした。金融商品取引法違反の容疑で逮捕・起訴されたゴーン被告は、総額15億円の保釈金を納めて保釈されたのですが、その15億円を捨てて密出国する道を選びました。

最近ではカジノ汚職疑惑に絡んで、収賄側とされた秋元司衆院議員が保釈中、贈賄側とされた人物に現金を渡し、秋元被告に有利な証言をするよう依頼した容疑で再逮捕されました(秋元被告は容疑を否定)。

刑事訴訟法89条によれば、懲役1年以下に当たる罪であること、証拠を隠滅する疑いがないことなど一定の条件の下では裁判所は保釈を認めなければなりません(権利保釈)、また同90条によれば、裁判所は被告人による逃亡や証拠隠滅の恐れの程度、身体拘束で被告人が受ける不利益など考慮して職権で保釈を許可することができます(裁量保釈)。保釈のためには保釈金を納付する必要があります。

日本の司法制度に関して、容疑者や被告人の身柄拘束を長期間継続して自白を促す「人質司法」だとの批判が今もあります。しかし、刑事事件の被告人のうち保釈された人の比率(保釈率)は上昇を続けており、2008年の15.2%から2018年には33.7%に達しました。裁判所が保釈請求に積極的に対応していることがわかります。

では、旭川地裁管内での窃盗や違法薬物所持などよくある刑事裁判の被告人がすべて保釈を請求しているかといえば、そうでもありません。最近は刑事事件が減っており、弁護を担当することも減りましたが、私のおおよその感覚で、保釈を要望する被告人は4人に1人もいない気がします。窃盗や詐欺といった犯罪の保釈金は150万円が相場ですが、一般社団法人保釈支援協会など立て替えてくれる団体があるので、調達はそれほど難しくありません。ただし、手数料(同協会が150万円を2ヵ月立て替えた場合、3万5000円・利息換算すると年利14%)が発生すること、被告人の親族が保釈に反対し、身柄引き受けを拒否して、保釈されたところで行き場がないことが、保釈を請求しない理由になっているようです。

納付した保釈金は、判決言い渡しがあれば返却されます。実刑判決が言い渡されると、保釈の効力が失われ、被告人はその場で身柄拘束され収監されてしまいますが、保釈金は返却されます。この場合、控訴とともに再保釈を請求することもできます。再保釈はだいたい認められているようですが、保釈金は1.5倍位になるようです。

まだ有罪か無罪か確定していない被告人が長期にわたり身柄を拘束されて人権を侵害されないようにするため、保釈は必要な制度ですが、金持ちに有利で、保釈金や手数料を払えない人には利用が難しいことも事実です。ゴーン被告の一件で、金持ちの逃亡も防ぎきれないことが明らかになったいま、保釈金をさらに高額にした上、GPSやネットなどの技術で逃亡を防ぐしくみが必要になっているのかもしれません。