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北海道経済 連載記事

2020年8月号

第125回 ミネルヴァの経営破たん

債務整理は弁護士の役割の一つ。裁判所から財産管理人に選任されることもある。ところが、全国的なCMでも知られる東京の弁護士法人が裁判所から破産の宣告を受けた。今回の法律放談はこの問題や過払い金関連の業務に注目する。(聞き手=本誌編集部)

6月24日、弁護士法人「東京ミネルヴァ法律事務所」が51億円の負債を抱えて、東京地裁から破産手続きの開始決定を受けました。弁護士は経営に秀でているわけではないので、経営に失敗し、破産することはありますが、ミネルヴァの破産は色々な意味で異質です。

知恵をつかさどるローマ神話の女神に由来する「ミネルヴァ」という名前を、テレビCMで耳にしたことがある人がいるかもしれません。2012年の発足以来、全国的な宣伝活動を展開し、各地で「無料相談会」を開催する手法で、過払い金、B型肝炎給付金訴訟などの事件を数多く引き受けていました。

現在でも大半の弁護士は個人で、または少人数で一緒に「法律事務所」を設立したり、別の弁護士が設立した法律事務所に雇用されたりして活動しますが、「弁護士法人」は2002年に解禁された新しいしくみで、「社員」(弁護士)が共同で設立します。株式会社や有限会社と異なり、弁護士法人の社員は無限責任ですので、51億円の負債、6人という社員の人数を考えれば、社員たちの自己破産は避けられません。自己破産すれば弁護士として活動できなくなります。もっとも、破産手続きで免責が認められ、どこかの弁護士会に所属できれば復帰は可能です。

報道によれば、ミネルヴァでは消費者金融会社などから送金された過払い金を依頼者に渡さずに流用していたとのことです。ミネルヴァが経営の実権を、全国的なCMを委託していた先の広告会社に握られ、かつこの広告会社の実質的な経営者がかつての消費者金融最大手・武富士の支店長だったとの指摘があり、実態の解明が待たれます。

過払い金やB型肝炎など特定分野に力を入れている法律事務所や弁護士法人は他にもあり、すべてがトラブルを起こしているわけではありません。こうした業務に多くの弁護士が取り組むのは、交渉や手続きの方法が確立しており、それに従えば容易に過払い金や給付金を獲得できることが多いためです。そういう理由からか、弁護士法人の代表の中には「サルでもできる弁護士業」という本を出版した人もいます。

こうした仕事をする弁護士を「漁夫の利」を得ているなどと批判する人もいますが、私はそんなことを言える立場ではありません。そもそも過払い金関連の巨大なニーズが発生したのは、武富士を相手に法廷で戦った弁護士の宇都宮健児氏(7月5日の東京都知事選挙に出馬し落選)を中心とする消費者問題を扱う弁護士達が、グレーゾーン金利の廃止を求める運動を長年繰り広げてきた成果です。私もこの成果を利用して過払い金を回収したことがあるからです。

弁護士は過去の先例を基準に事件処理するので、言わば「他人のふんどしで相撲を取る」のが弁護士業です。裁判で従来になかった新しい判例や従来の判例の変更を獲得することは、快挙であり、極めてまれなので、「他人のふんどしで相撲を取る」だけで終わる弁護士が大半です。

事件数が減少する中で弁護士数が急増したこの時代でも、過払い金関連の仕事はそれになりにあったようで、収入源としていた弁護士もいたようです。ミネルヴァの経営破たんは、そんな時代の終わりを告げているのかもしれません。