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北海道経済 連載記事

2020年7月号

第124回 検察長辞任と賭け麻雀

昨年から世間の注目を集めていた黒川弘務・東京高検検事長の勤務延長や検察庁法の改正問題は、予想外のかたちで決着した。今回の「法律放談」は、法曹三者の体質と賭け麻雀について考える。(聞き手=本誌編集部)

週刊文春による「賭け麻雀」のスクープを受けて、東京高検検事長だった黒川氏は辞表を提出し、政府も改正案の今国会での成立を断念しました。黒川氏に対する処分は、懲戒処分よりも軽い訓告どまりで、減額されたとはいえ退職金5900万円が支払われたことを非難する報道もありました。

処分内容決定までの経緯に関してもさまざまな報道がありますが、最終的には検察トップの検事総長が了承しています。これは推測ですが、報道されている1000点100円のレートでの賭け麻雀なら、これに興じている検察関係者が他にもいるために、黒川氏を厳しく処分することができないのかもしれません。「このレートなら賭博罪に該当しても起訴猶予相当」とテレビで述べている検察OBもいました。

麻雀は運に左右されるだけではなく、頭も使うためか弁護士の中にも愛好家が少なくありません。「北海道弁護士連合会定期大会」では、本題である人権擁護と社会的正義の実現に関する行事のほかに、親睦を目的とする行事も開催するのですが、ゴルフ大会等と並んで盛んなのが麻雀大会です。

私個人は、法曹関係者と麻雀をした記憶はあまりありません。司法修習生時代に、原子力発電所等の施設見学旅行の際、指導担当の検察官と雀卓を囲んだことがある程度です。司法修習生相手なのでさすがに金員は賭けていませんでした。社会全体と同様、弁護士の間でも麻雀は以前ほど人気の娯楽ではなくなっていますが、私よりも一回り、二回り上の先生の中には熱心な人もいて、昔の話ですが「かなりの高レート」で打っていたとの話を聞いたことがあります。

さて、俗にいう「法曹三者」と言えば裁判官と検察官、弁護士です。司法試験受験や司法修習の時からの知り合いでもない限り、弁護士が仕事以外で裁判官や検察官と交流する機会はあまりありません。法務局、刑務所を交えた法曹関係者の間で親睦を目的に野球大会が開かれていますが、裁判所や検察庁から参加するのは書記官・事務官などの職員で、裁判官や検察官を見かけることはあまりありません。そういうわけで最も裁判官や検察官と交流できるのは司法修習生ということになります。司法修習生時代に感じたのは、裁判官は私生活においても真面目で慎重な人が多く、年長の裁判官ほどその傾向が強くなります。車の運転はしないか、運転しても超安全運転です。車の足回り等、安全性に金員をかけても賭け麻雀はしないと思います。

他方で、検察官は概して裁判官ほど真面目ではなく、賭け麻雀をしていても不思議ではありません。また、検察組織の体育会的な雰囲気の強さを感じます。上司の命令は絶対で、部下が異を唱えるのは難しそうです。

旭川弁護士会は4月27日に、検事長の勤務延長と検察庁法改正案の撤回を求める会長声明を発表しました。日本弁護士連合会や、各地の弁護士会も同様の姿勢を明確にしています。一方で、当事者であるはずの検察は、検事総長経験者を含む大物OBが政府の方針に強く抗議したものの、現役からは表立ってほとんど異論が出ませんでした。これは、上意下達という官吏の基本的な性質に加えて、体育会的な雰囲気の検察の体質を反映したものかもしれません。