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北海道経済 連載記事

2020年6月号

第123回 「コロナ」でIT活用進むか

社会のあらゆる分野に新型コロナウイルスの影響が及んでいる。依頼者や相手方、裁判官と対面して交渉して手続を進めることが基本の弁護士業界も例外ではない。今回の「法律放談」では、裁判の遅れや、IT・ネットワーク機器活用の可能性に注目する。(聞き手=本誌編集部)

各地の弁護士会や法テラスでは通常、面談形式での法律相談会を開いています。弁護士が持ち回りで相談に応じ、相談内容によっては正式な委任を受けて提訴など次のステップに進みます。多くの弁護士にとってはこの法律相談がクライアントを獲得する機会となっているのですが、新型コロナウイルス拡大防止のための緊急事態宣言を受けて、面談形式の法律相談が開催できなくなり、新規の依頼が減っています。

新たに裁判を起こしても、当面は通常の進行が難しい状況です。緊急事態宣言期間中に指定されていた裁判の期日は取り消され、延期となりました。新たな期日はおって指定となり、現時点(4月末現在)では未定です。不急の案件は、緊急事態宣言が解除され、事態が鎮静化するまで棚上げとなりそうです。被告人の身柄が拘束されている刑事事件や、身の危険が迫っており早期の救済を要する事件、コロナウイルス関連の事件については、例外的に速やかな対応が行われると思います。

医療資材の備蓄など日本のコロナ対策に後手に回った部分があるのは否定できませんが、最高裁判所は4年前にはもう「新型インフルエンザ等対応業務継続計画」をまとめていました。この計画によればDV、人身保護、令状に関する事務は継続するものの、一般の民事訴訟や、勾留を伴わない事件は優先順位が低いとされています。実際、現時点での裁判所のコロナ対応はこの計画に沿って行われています。

しかし、棚上げされている大量の事件をそのままにしておくことはできず、もしも混乱が長期化するようなら、何らかの新しいしくみで裁判を再開することも必要になるかもしれません。

東京や大阪では、社員が在宅でパソコンやネットを使うテレワークの動きが大企業を中心に広がっています。伝染病対策ではありませんが、日本の裁判所でも、効率化を目的に訴訟手続きの一部についてこうしたIT機器を試験的に導入する動きがあります。すでに、当事者(原告・被告)、証人の尋問に至るまでの弁論準備の段階では、裁判所の和解室と弁護士の事務所を電話でつないで期日を実施して進行することが一般的ですし、民事訴訟法によれば証人尋問や鑑定人の陳述が映像と音声の送受信、つまり電話やテレビ電話で行えることになっています。また、弁護士会の会議もテレビ会議で参加することができ、旭川にいながら東京での会議に参加したこともあります。

しかし、テレビ会議に参加した経験から言えば、面と向かってなら自発的に発言することも、テレビを通すと他の参加者から促されないと発言しなくなるものです。技術的な問題のために映像や音声が途切れて円滑に進行しないこともよくあります。

また、例えば片方の弁護士の質問内容をめぐって相手側の弁護士が「誘導尋問」と異議を出し、裁判官が異議に理由あるか判断するなど、法廷では丁々発止のやりとりが繰り広げられることがあるのですが、機械を通してしまうとこのようなやり取りが間延びしてしまうと思います。

何はともあれ、コロナウイルスをめぐる混乱が早期に収まることを願っています。