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北海道経済 連載記事

2020年4月号

第121回 裁判官の病欠・当事者の死去

新型肺炎コロナウイルスにまつわる不安が広がっている。裁判官も弁護士も人の子。病気になって裁判の進行を遅らせてしまうこともある。今回は原告・被告、代理人弁護士、裁判官など関係者の健康状態が裁判に及ぼす影響について。(聞き手=本誌編集部)

新型コロナウイルスによる肺炎の影響が連日報道されていますが、法廷でマスクを着用している裁判官を見かけたことは、いまのところありません。裁判官が一段高いところにいる法廷はともかく、和解室などでは関係者の間の距離が近いため、心配になることもありますが、裁判官としてはいまのところ円滑な意思の疎通を優先しているようです。

裁判官も人の子ですから、体調が悪くなることもあります。昨年もある裁判の証人尋問期日で、3人の裁判官のうち1人の具合が明らかに悪い日がありました。病気をおして裁判官席に座り、何度か鼻水をかみながら証言に耳を傾けていましたが、通常の職場なら病欠していたのではないかと思います。

複数の裁判官で審理する合議制の裁判では、裁判官のうち一人が「受命裁判官」として、和解の試み、弁論準備手続き、証拠調べなどを行えることになっており、本来、裁判官が体調不良の場合の制度ではないのですが、その場合にも活用できる制度と言えます。

もっとも、裁判官がインフルエンザにかかったなどの理由で裁判を開けない場合には、直前に電話連絡が裁判所からあり、期日の延期を告げられることもあります。より重い病気で期日の変更のめどが立たない場合には、そのまま休職して別の裁判官と交代することになります。なお、裁判の途中で裁判官が交代したために判決の内容が大きく変わるようなことは、まずありません。

裁判の当事者である原告や被告が病気で出廷できなくなることもあります。事前連絡があれば延期、なければ欠席として扱われます。欠席扱いとなると相手方の主張を認める自白とみなされる場合があります。

原告や被告が死亡してしまった場合、所定の手続きを経て、相続人が裁判を引き継ぐことができます(訴訟承継)。なお、相続人が訴訟承継を拒否した場合、原告死亡の場合は相続人に、被告死亡の場合は原告に訴えを取り下げてもらって裁判は終了します。もっとも、相続人が複数いると、それぞれに承継について意思表示を求めることになり、未成年者が含まれていると、未成年者は単独で訴訟追行できないので、未成年者に特別代理人を選任して意思表示してもらわなければなりません。手続きが非常に煩瑣なものとなるのが現実です。

予防接種や薬害によって肝炎になった人が国を訴える損害賠償訴訟の際には、訴訟承継が生じ得ます。そもそも予防接種や薬剤の投与が行われたのが数十年前で、判決言い渡し前に亡くなってしまう人もいるからです。また、感染・発病した人が亡くなった後で、その子息などが感染の経緯を証明する証拠をそろえたうえで提訴することもあります。

弁護士も病気を理由に期日の延期を求めることがありますが、相手側の弁護士事務所から、審理の開始予定時間直前に連絡が来た場合には、「本当は寝坊しただけではないのか」と疑ってしまいます。私個人としては、帯広の裁判所に向かう途中で、速度超過の疑いで止められてしまい、すぐに裁判所に連絡して開始時間を遅らせてもらったことがあります。病気のために休んだことは一度もありません。