しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第120回 道北の人口減が裁判に影響

北海道経済 連載記事

2020年3月号

第120回 道北の人口減が裁判に影響

 旭川地裁には旭川市内に置かれる本庁の他に、広大な管轄エリアの中に4つの支部がある。支部では開廷日(審理が行われる日)がひと月に3日と限定されていること、裁判官(地裁判事)が常駐していないことなどが、支部での裁判手続に微妙な影響を与えている。(聞き手=本誌編集部)

旭川地方裁判所の管轄するエリアは広大で、その面積は四国4県の合計よりも広い約2万3000平方㌔に達します。管内の事件を旭川市花咲町にある本庁だけで担当するのは無理があり、稚内、名寄、紋別、留萌の4か所に地裁支部が設けられています。

弁護士については「司法過疎」対策が進み、以前は弁護士がいなかった地域にも日弁連の支援を受けた「ひまわり基金法律事務所」などが設置されました。一方で、裁判所や検察庁については、支部の体裁は整えられているものの、人員の配置などを見れば旭川本庁に比べ極めて小規模です。

地裁支部については、地裁本庁の裁判官のうち誰がどこを担当するのかが決まっています。毎月連続する3日間しか開廷日がなく、その日にしか裁判が行われません。旭川管内の4支部には裁判官(地裁判事)が常駐しておらず、開廷日のたびに担当裁判官が旭川から出張します。開廷日に審理が終わらず、続行される場合、裁判官、被告側代理人、原告側代理人が次の期日を検討しますが、ひと月に3日しか開廷日がない関係で、柔軟に期日を指定することができず、三者のスケジュールがそろわない場合は2ヵ月以上、間隔が空いてしまうこともあります。

こうした事情は裁判の手続にも影響を及ぼします。地裁支部では迅速に裁判を終わらせるために手続きを「圧縮」して済ませてしまうことがあります。例えば、尋問実施の期日に和解も成立させてしまうといった具合です。柔軟に期日指定できる場合は即和解ではなく、検討期間が設けられることが多いです。こうした状況に不満を募らせている当事者もいるかもしれません。

一方、刑事事件で身柄を拘束されている被告人が起訴事実を認めている場合、地裁支部で通常の運用で裁判手続を進めると拘束期間が1か月単位で長期化するために、迅速な審理が行われることがあります。

以前このコーナーでも取り上げた通り、旭川地検留萌支部は2017年4月から旭川で執務を行っています。日弁連では、裁判官や検察官の常駐しない支部の解消を主張していますが、留萌管内の人口が4万5000人に満たず、検察も他の役所と同様経費削減を求めらていることを考えれば、留萌支部の非常駐化は仕方のないことなのかもしれません。

道内ではJRの路線や列車本数が以前よりも減り、また紋別支部など鉄道ではアクセスできない場所もあるために、弁護士の多くは自らクルマを運転して地裁支部に赴きます。裁判官は交通事故を起こさないよう、公務では鉄道やバスなどの公共交通機関を使って移動する人が多いため、時間的にはもっと大変で、開廷時間によっては前泊する人もいます(若手の裁判官の中には自ら運転する人もいるようですが)。

こうした状況は、今後解消するどころか、道北地域における人口減少と事件数の減少が進むことで一段と深刻になることが予想されます。旭川は札幌から近く、アクセスが比較的良好なだけに、さらに人口減少が進めば旭川地裁が廃止されて札幌地裁の支部となり、裁判官や検察官が裁判のたびに札幌から道北まで出張するようになるかもしれません。