しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第12回 不貞行為の慰謝料について

北海道経済 連載記事

2011年3月号

第12回 不貞行為の慰謝料について

不倫が原因で慰謝料を請求される可能性があるのは、夫婦のうち浮気をした者と、その者と共同不法行為者となる不倫相手である。既婚者同士の不倫の場合は、2個の慰謝料請求訴訟が並行して行われ、泥仕合となることがある。今回はこの不貞行為の慰謝料と、気がかりな傾向について。(聞き手=北海道経済編集部)

たとえば夫が妻以外の女性と不倫関係となり、これが原因で妻と離婚したと仮定しましょう。元妻は元夫と不倫相手の女性に、不貞行為の慰謝料を請求できます。この概念はすでに広く知られており、不貞行為の慰謝料について相談に訪れる人が増えています。

以前、このコーナーでお話ししたことがありますが、不貞行為の慰謝料は、大まかに言うと婚姻関係1年につき10万円と考えてください。どちらかの浮気のために結婚10年の夫婦が破たんすれば100万円、20年なら200万円が一応の目安になるでしょう。具体的にはその夫婦の個別の事情によって、金額が増減します。

不倫は、既婚者である夫と不倫相手の女性による「共同不法行為」です。このため慰謝料も2人に支払いを求めることが基本となります。妻は夫と婚姻関係を維持したまま、つまり離婚をせずに、不貞行為の慰謝料を不倫相手の女性のみに請求することもできますが、その場合、妻は夫(共同不法行為者の1人)を許したことになりますから、慰謝料は先程述べた目安となる金額の50%程度減額されるのが普通です。

慰謝料を求めて提訴する前に気をつけたいのは、裁判所の判決と、夫や不倫相手の女性に現実に支払い能力があるかどうかは、全く別の問題だということです。一定の収入や財産がなければ、裁判費用、弁護士費用、強制執行をかけたとすればその費用を、すべて原告側が負担することになる上、一銭も慰謝料が手に入りません。実際、配偶者が高校生と浮気したので、他方配偶者がこの高校生を相手に慰謝料を求めて提訴した事例がありましたが、明らかに支払い能力の欠如している者を相手に、仮に勝訴したとしてもどれだけ実質的な意味があるのか疑問です。

さて、これまでは夫が不貞行為に及ぶケースが一般でしたが、近時は妻が不倫に走るケースや、いわゆるダブル不倫、つまり、不貞行為の当事者がいずれも既婚者であるケースが増加しているように思います。

ダブル不倫の場合、浮気をされたA男は、自分の妻B女と、その不倫相手のC男に慰謝料を請求します。一方、C男の妻D女は、自分の夫C男と、その不倫相手のB女に慰謝料を請求します。このような状況では「向こうが100万円というなら、こっちは200万円を要求しよう」というふうに、請求金額がどんどん膨らんでいくことがあります。不貞行為の被害者が2名いるので、裁判が2個行われることになりますが、夫婦関係が同じような状況なら、慰謝料は一方で支払い、他方で受け取る関係になり、プラスマイナスでゼロに近くなるはずです。

にもかかわらずダブル不倫について、それぞれが高額の慰謝料を請求する事例が散見されます。双方の弁護士が上記のような事情をそれぞれ説明すれば、無益な争いに発展しないケースもあるはずです。弁護士の着手金は基本的に訴額、つまり支払いの要求額に応じて決定されます。弁護士の急増が競争の激化、さらには過度な訴訟合戦・訴額の高額化を招いているのだとしたら、心配な傾向です。(談)