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北海道経済 連載記事

2020年1月号

第118回 弁護士バッジ

弁護士がスーツの襟に付けている金バッジ。以前に比べて威厳がなくなったとは言え、依然として威圧される人もいるはず。実際、このバッジは身分証として機能している。今回の法律放談は、弁護士バッジをめぐるあれこれを取り上げる。(聞き手=本誌編集部)

弁護士の身分証は金色の「弁護士記章」、俗にいう弁護士バッジです。弁護士会の会則には、「弁護士が職務を行う場合、記章を帯同しなければならない」との定めがあります。弁護士会では別に身分証明書を発行していますが、このバッジが身分証代わりに機能しているとも言えます。

弁護士バッジは純銀に金メッキがほどこされたものです(18金製の高価なバッジもあります)。中央には天秤が、周囲にはひまわりの花びらがデザインされています。空に向かって真っすぐに伸び、太陽に向かって咲くひまわりは弁護士の象徴として使われることが多く、かつては女性が弁護士になるまでの奮闘を描いた「ひまわり」というテレビドラマもありました。弁護士過疎解消のために日本弁護士連合会の支援を受けて地方に「ひまわり基金法律事務所」が設立されているのも、同じ理由によるものでしょう。

弁護士バッジは犯罪に悪用される可能性もありますから、裏面には弁護士の登録番号が刻印されており、弁護士は厳重に管理しなければなりません。とはいえ、日常的に使用しているものだけに、なくしてしまう可能性もあります。紛失すると弁護士会に報告し、再発行を申し込まなければなりませんが、官報に記章の番号、氏名、名前が掲載されてしまいます。官報の「記章紛失」という項目には毎月二十数人の弁護士が登場しています。紛失した場合、なぜ、こんなに怒られるのか?と理不尽に感じる程、厳しく注意されるそうです。

私の場合、長い時間をかけて司法試験に合格し、司法研修所の卒業試験に合格して、やっと弁護士登録できたので、弁護士登録して、弁護士バッジを購入し、胸に付けたときには感慨深いものがありました。

しかし、バッジが金ピカだと弁護士業務に差し支えると考える弁護士もいます。そういう考えの弁護士は、ヤスリをかける、小銭と一緒に財布に入れる、洗濯機で洗うなどの方法で、故意に金メッキをはがすようです。金ピカの新しいバッジをつけていると「弁護士登録して日が浅く、経験不足なので頼りない」と思われ、クライアント(顧客)が見つかりにくいというわけです。

これと似た話で、弁護士会館来訪者が希望すれば渡される弁護士一覧に「修習期を掲載しないでほしい」という要望が寄せられたことがあります。修習期の数が大きいと、まだ弁護士登録して間もないことがわかってしまい、頼りないと思われると心配しているようです。どちらも、クライアントに対する印象を良くしようとするもので、弁護士人口増加による過当競争を象徴するような話です。

仕事の後で飲みに行くときなどに、バッジを裏返して付けている弁護士を見かけることがあります。遊んでいるのを見られたくないなら着替えるか、バッジを外すかすれば良く、裏返して付けるのはカモフラージュというよりも、むしろ弁護士としての自意識が過剰なのではないかと思います。弁護士バッジに以前ほどの威厳がなくなった今のご時世、裏返して付けるのはみっともないです。