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北海道経済 連載記事

2019年11月号

第116回 単独親権と共同親権

民法によれば、婚姻関係にある夫婦は両方が子の親権を持ち(共同親権)、離婚すれば父、母のうちいずれかが親族を持つ(単独親権)とされる。今回の「法律放談」は単独親権に関わる問題点と今後の展望について考える。(聞き手=本誌編集部)

一般的に、離婚をめぐる夫婦間の対立には親権、財産分与、慰謝料という3つの主要な争点があります。

財産分与や慰謝料は金額の問題ですが、親権は心に深く根ざした問題であるために、夫婦が激しく対立することがよくあります。親権が取れなければ離婚しないとする人も多く、離婚するしないよりも親権の所在の方が優先順位が高く、離婚後の親権は父と母のうちどちらかに属するという民法の単独親権の規定が、対立をことさらに激化させ、離婚を困難にしているように思います。

親権とは、書類上の抽象的な概念にとどまらず、親子関係に大きな影響を及ぼします。血がつながっていても、親権を失った親(多くの場合は父)は、離婚前に合意した方法以外では子と自由に会うことができなくなります。子の授業中の様子や成績を問い合わせても、学校は教えてくれません。子がケガで入院したとしても、病院は親権のない親には情報を開示してくれないでしょう。こうした厳しい現実を伝えると、それまで離婚を考えていた人が、親権を失いたくないとしてあきらめることが少なくありません。

単独親権については、夫婦関係が破たんした結果、なぜ親と子の関係まで深刻な影響を受けなければならないのかといった指摘があります。私も過去にいくつか親権をめぐる訴訟で代理人を務めた経験から、単独親権のしくみはおかしいと感じています。

親権者変更をめぐる規定も不合理です。親権をもつ親が子を虐待するなど極端な状況では、裁判所に「親権者変更」を申し立てることができますが、親権を得た側が再婚して、その相手と子が養子縁組すれば、非親権者は親権者の変更の申立ができなくなります。共同親権が原則で単独親権は例外だからです。ただ、非親権者の実親としては受け入れがたい状況でしょう。

単独親権は家族生活における個人の尊重と両性の平等を定めた憲法24条に違反するとの指摘もあります。今年3月には「単独親権は違憲」と主張する男性が国を相手に賠償を求める裁判を起こしており、他に市民団体が集団訴訟を計画しています。

離婚後は単独親権と定められているのは、離婚後も共同親権が続くと、子が対立する父、母の間で板挟みになり、不利益をこうむるのを防ぐのが目的でしょう。また、戦前には親権は父親に属すると定められており、現在の民法の規定には男女同権という意味合いもあります。しかし、結婚した3組のうち1組が離婚するいまの日本に、単独親権はそぐわないのではないかと思います。

こうした声に対応して、法務省が先日、共同親権について検討する研究会を立ち上げると発表しました。学者や裁判官、弁護士らが1年以上をかけて論議して、まずは論点を整理するということです。将来、民法が改正されて離婚後の共同親権が認められるようになれば、親権のために婚姻を維持する夫婦は減るでしょう。