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北海道経済 連載記事

2019年9月号

第114回 証拠の提出は早めに

民事裁判の法廷では原告と被告が攻防を繰り広げるが、証拠がその際の「武器」となる。裁判所に対する証拠の提出が後れた場合、裁判で採用されないことがある。今回の法律放談は「時機に後れた攻撃防御方法の却下」に注目する。(聞き手=本誌編集部)

民事訴訟法第157条は次のように定めています。「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる」。「時機に後れた攻撃防御方法の却下」と呼ばれるルールです。

簡単に言えば、提出できたのにあえて提出しなかった、提出を忘れていた証拠は採用されず、事実認定の基礎資料とならない結果、判決に影響を与えないということです。証拠は裁判が結審するまでは、提出できるのが原則です。これらの証拠をもとに原告と被告が「攻撃」と「防御」を法廷で繰り広げるわけですが、原則通りだと、結審の直前の期日に次々と証拠を提出すれば、裁判所や相手方当事者はこれに対応しなければならず、いつまで経っても判決が出ない状況が生じてしまいます。被告が判決を言い渡されたくない場合は、証拠の乱発で判決の引き伸ばしを図るかもしれません。

被告だけでなく、現在の裁判官(裁判体)では有利な判決が得られないと予想した原告が、異動による裁判官の交代に期待して同じ手段で裁判の引き延ばしを図る可能性もあります(このような戦術が判決に影響を与えるかは疑問ですが)。

民訴法第157条の目的は、こうした戦術を防いで裁判の迅速化を図ることにあります。

このため、提出できる証拠はできるだけ早く提出するべきです。提出できるかどうかわからない証拠(事情を知る人が証人として協力してくれるかどうか不明な場合など)があれば、具体的な内容はさておき、予告はしておくべきでしょう。予告通りに証拠が提出できなかったとしても、ペナルティはありません。

地裁で行われる第一審で証拠を温存し、提出しなかった場合、控訴審で提出すればいいかというと、控訴審で「時機に後れた攻撃防御方法」と判断されて却下される可能性があります。

仮に採用されたとしても、事実認定にはほとんど影響しないように思います。控訴審では、第一審に提出された証拠を再検討して判決を言い渡すので、短期のうちに審理が終了します。民事裁判の控訴審の7割では、1回の審理だけで結審しているのが実態です。新たな証拠の採用は審理の長期化を招くことから、必要性・関連性が低いと判断された証拠は採用されず、証人尋問も必要性が高く、結論に影響を与えうる場合でなければ採用されないケースが大半で、新証拠で控訴審の逆転勝訴を勝ち取るのは至難の業です。

また、最高裁に上告できるのは憲法解釈に誤りがある、その他憲法違反があるなど限られた状況しかなく、新証拠が日の目を見る余地はほとんど残っていません。

判決の引き伸ばしを狙っていなくても、何らかの理由で証拠提出が遅れれば、「時機に後れた攻撃防御方法」と見なされて認められないことがあります。勝訴のためには、証拠を可能な限り早く準備して提出することが大切です。