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北海道経済 連載記事

2019年6月号

第111回 弁護士から政界へ 転身の理由

国会議員や地方自治体の首長・議員には、弁護士出身者も散見される。弁護士が政界に転身する理由を小林史人弁護士に聞いた。(聞き手=本誌編集部)

国会議員や閣僚の中には、弁護士出身者が散見されます。日弁連の統計によれば、昨年10月の時点で弁護士登録をしていた人は衆議院議員が22人、参議院議員が13人でした。柴山昌彦文科相、山下貴司法相、枝野幸男立憲民主党代表(以上衆議院)、山口那津男公明党代表、福島瑞穂社民党副代表(以上参議院)など、閣僚や著名な議員が名を連ねています。この夏の参議院議員選挙でも相当数の弁護士が立候補を予定しています。

地方自治体の首長経験者の中にも弁護士出身者がいます。大阪府知事や大阪市長を務めた大阪都構想の橋下徹氏、先日の統一地方選挙で大阪市長から大阪府知事に「鞍替え」して当選した吉村洋文氏は弁護士出身です。吉村氏は弁護士時代に消費者金融最大手だった武富士の代理人を務めていたこともあります。

道内でも、衆議院議員、北海道知事を務めた横路孝弘氏、札幌市長を務めた上田文雄氏、旧衆議院北海道2区、その後の6区選出の国会議員だった佐々木秀典氏は弁護士出身です。弁護士登録を維持したまま国会議員や地方自治体首長を務めました。なお、旧2区選出の国会議員だった安井吉典氏が引退する際には、周囲から世襲を勧める声もあったのですが、安井氏が世襲を拒否したと言われています。ちなみに安井氏の子息、規雄氏は弁護士で、昨年度の東京弁護士会の会長です。

弁護士が政界へ転身する理由として、国会議員、地方自治体首長・議員として法律や条例の制定、改廃に携わることが、日々六法全書と格闘し法律事務を処理する弁護士業務と関わりが深いという理由が思い浮かびますが、他にも2つの理由があると思います。

まず、弁護士が「事後処理」に対して抱いている物足りなさです。弁護士の仕事は現実に被害が生じたところから始まりますが、被害者をサポートして裁判に勝ったとしても、被害を「なかったこと」にはできません。間違った法律が制定され、その法律に沿って政策が実行されれば、多くの人が影響を受けます。裁判を通じて事後的に損失を補填することも重要ですが、そもそも間違った法律を作らない、正しい内容に改正することに、より一層、意義を感じているのだと思います。

もう一つは、休止と再開が比較的容易という弁護士業務の特性です。一般企業で働きながら家族も養っている人が落選のリスクを背負った上で仕事を辞めて立候補するのは大きな勇気のいることですが、弁護士の場合、いったん弁護士業務を休止して選挙に出ても(受任している事件を継続できないので、その引き継ぎは発生しますが)、落選してから、または政界を引退してから、弁護士業務を再開することが比較的容易です。候補者を探している政党としても、相手が弁護士なら声をかけやすいはずです。

政界に転身した弁護士の特徴は、利他的で「弁護士業界」の利益には関心が薄いことだと思います。医療、建設、労組、農業など多くの分野から、その組織や利益を代表する形で議員が国会・地方議会に送り込まれていますが、弁護士出身の議員で弁護士業界の利益のために積極的に活動する議員は聞いたことがありません。