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北海道経済 連載記事

2019年5月号

第110回 「谷間世代」の救済措置

弁護士の「懐事情」が次第に厳しくなっている。中でも状況が深刻とみられるのが、1年間の司法修習期間中に給付を受けられなかった「谷間世代」だ。今回の「法律放談」はこの谷間世代に対する日弁連の支援措置に注目する。(聞き手=本誌編集部)

弁護士業界に「谷間世代」という言葉があります。司法修習の期間中、国から給料が支給されず、返済義務のある貸与制を利用しなければならなかった世代を意味し、2011年11月に採用された司法修習65期から、16年11月採用の70期まで、合計約1万人がこの世代に該当します。

64期までは、司法修習生に毎月約20万円が支給されていました(給費制)。札幌地裁に配属され実務修習地が札幌だった私は、都市手当と寒冷地手当の両方が加算されたので、修習生の中でも非常に恵まれていました。司法改革で司法修習生が増加し、財政負担も増したことから6期にわたり給費制に替わって貸与制が導入されたものの、17年11月採用の71期からは、金額こそ月13万5000円に減ったものの、給費制が復活しました。この結果、谷間世代だけが不利な立場に置かれました。昨年7月に最初の返還期限を迎えた65期のうち38人から、今年2月末までに返還猶予の申請があったとのことです。

法科大学院(ロースクール)を中核とする現在の法曹養成制度の下では、一般的に数百万円の学費を負担しなければなりません。親が裕福な人でなければ、司法修習が始まる時点で多額の借金を抱えている可能性が十分にあります。さらに、司法修習の期間中はアルバイトが認められていません。

日弁連は3月1日、この谷間世代に対して、一律に20万円を給付する救済措置を決めました。「谷間世代の多くが抱く負担感や不公平感を日弁連全体として受け止め、世代間に隔絶が生じないよう力を尽くす必要がある」というのが措置の理由です。支給総額は約20億円で、日弁連の一般会計で生じた余剰金が貯まりに貯まったので、そのうち約半分を充てます。

しかし、個々の弁護士からはこの措置に反対する声も上がっています。たとえば、法曹の養成は国の仕事であり、谷間世代への支援も国が行うべきだという意見があります。その一方で、月20万円ではなく、総額20万円だけでは谷間世代を支援する効果が薄いと指摘する声もあります。

私は給費制廃止前の世代ですが、当時の合格率は2〜3%台で、私のように長年浪人してようやく司法試験に合格する人もいました。現在、法曹になること自体には、当時よりも時間がかからなくなっており、合格までに長期間を費やすよりは投下資本が少なくて済んでいるので、給付の有無についてのみ不公平だと強調するのはおかしいのではないかという気もします。一方で、公的な支援がなければ富裕層の子女しか法曹になれないのも事実です。

谷間世代を支援する必要が生じたのも、全国で法科大学院が相次いで募集停止に追い込まれているのも、司法改革が推進した新しい法曹養成制度がうまく機能していないのが理由です。日弁連はこの制度の抜本的見直しを主張すべきなのですが、日弁連も国と一緒に現在の制度の導入を提唱したためか、そうした声は少数派にとどまっています。