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北海道経済 連載記事

2019年4月号

第109回 不貞行為の慰謝料と離婚の慰謝料

不貞行為が原因で夫婦が離婚した場合、不貞行為に走った側が慰謝料を支払うのは常識だ。今回の法律放談は、不貞行為についての慰謝料の傾向と、最近、最高裁で言い渡された判決で焦点となった、不貞行為により離婚した場合の、離婚についての慰謝料に注目する。(聞き手=本誌編集部)

最高裁小法廷で2月19日、元夫が元妻の不貞行為の相手だった人物に離婚に対する慰謝料を求めていた裁判の上告審判決が言い渡され、最高裁はこうした慰謝料の請求はできないとの判断を初めて示しました。

事実関係を整理すれば、この夫婦が結婚してから14年が経過したころから、妻は第三者の男性との不貞行為を始め、約1年後に夫が妻と男性の不貞関係を知ったため、不貞関係は解消されました。その4年後に夫婦は別居。夫の申し立てで1年後に離婚が成立しました。同年、元夫が離婚について元妻の不貞の相手だった男性に約500万円の慰謝料を求める裁判を起こし、一審と二審では200万円の支払いが命じられたものの、今回の最高裁判決では、元夫の請求が退けられました。

なお、不貞行為そのものについては、配偶者だけでなく、その相手にも慰謝料の支払い義務があることが多くの裁判で認められています。今回の裁判で争点となったのは、不貞行為ではなく、その結果生じた離婚についても慰謝料の支払い義務があるかどうかでした。

最高裁は今回初めて「夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、上記(離婚させることを目的に婚姻関係に不当な干渉をするといった)特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」との判断を示し、今回のケースは特段の事情がないとして、元夫の主張を退けたわけです。

さて、従来から認められている不貞行為の慰謝料は、以前よりもやや高額化していますが、それでも標準的なケースで150万円、かねてから夫婦仲が悪かったなど、それほど悪質でないと見なされる場合で100万円、暴力行為があった、不貞相手との間に子ができたなど悪質なケースで200万円〜300万円というのが平均的な金額ではないかと思います。日本の裁判で認められる慰謝料の金額が、他の先進諸国と比較して低廉すぎるとの認識が広がったことが、高額化の一因です。

ただし、この金額には財産分与や養育費は含まれていません。慰謝料を払う側が資産家である場合、もっと多くのお金が財産分与、養育費の名目で支払われます。

不貞行為や離婚の慰謝料ではありませんが、婚約者を助手席に乗せて運転中に事故を起こし、婚約者に大けがをさせた上、婚約を一方的に解消した男性を訴え、婚約破棄についての慰謝料600万円を主張したことがあります。社会常識に照らせばこの男性の責任は極めて重いと思われますが、それでも、当時のご時世では婚約破棄の慰謝料600万円を裁判所に認容させるのは至難の業でした。最終的には和解で決着したので、婚約破棄の慰謝料の具体的金額は認定されていませんが、逸失利益や入通院や後遺障害の慰謝料等を含めたトータルでは高額の和解金でしたので、前記社会常識が考慮されたものと思っています。

例外的に、不貞行為の慰謝料が増額されるのが、妻側の不貞のため夫婦が離婚し、子の親権を妻が取得するケースです。こうした状況でも夫が子の養育費を負担することに配慮して、妻から夫に比較的多額の慰謝料支払いが命じられることがあります。