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北海道経済 連載記事

2019年3月号

第108回 子どもの供述の取扱い

大人でも、目撃したことを正確に供述することは難しい。子どもの場合、質問の仕方によっては見ても経験してもいないことを供述したり、虐待など辛い経験を思い出して二次被害が発生する可能性があるなど、さまざまな困難が伴う。今回の法律放談は、子どもの供述に関する問題に注目する。(聞き手=本誌編集部)

私が以前担当した刑事事件の裁判で、未就学の幼い子どもが証人になったことがあります。密室で発生した事件であり、被告人となった大人以外には、その子しか目撃者がいませんでした。

事件直後に警察がその子から事情を聞いていたのですが、そのようなことは当初は明らかにされませんでした。未就学者ではありますが、事件当事者以外では唯一の目撃者であるので事情を聞いていないはずはないと私は思い、未就学者である目撃者の調書があると考えて調書の開示を求めました(裁判員裁判制度が導入された今は類型証拠開示請求という手続きの下、このような証拠の開示を求めることができますが、この事件の裁判が始まったのは同制度の施行前でした)。

未就学者である目撃者の証人採用が決まった段階で、その子の調書は任意開示され、被告人に有利な内容が含まれていることがわかりましたが、当然、検察官はその調書を証拠採用することに同意せず、後述の伝聞証拠としても採用されず、裁判の証拠とすることはできませんでした。その子の証人尋問は実施されましたが、事件の発生からほぼ1年が経過しており、幼い子のことですから、その時点では事件の詳細な経緯を記憶しておらず、調書の内容を証言することはできませんでした。また、何らかの理由で記憶が変わってしまった可能性もあります(記憶汚染)。結局、調書に記載された被告人に有利な内容は裁判では顕出されなかったため、判決で考慮されず(調書に記載された事実はなかったことになる)、被告人には厳しい判決が言い渡され、確定しました。

専門的な話になりますが、調書は伝聞証拠(また聞きの証拠)であるため証拠能力が制限されており、例外的に証拠採用するための要件が定められています(刑事訴訟法321条)。警察官が作成した調書は、裁判官や検察官が作った調書と比較して証拠採用の要件が厳しく設定されています。裁判では子どもが出廷して証言したので、警察官が事件直後に事情を聞いて作成した調書は証拠採用の要件を満たさず、採用されませんでした。また、1年という時間の経過で記憶が薄れたり、記憶汚染された可能性については配慮されませんでした。この事件で、仮に発生直後に警察や専門家が適切な方法で子どもから事情を聞いて調書を作り、それが証拠として裁判で採用されていれば、判決内容は違ったものになったかもしれません。

幼い子が証人や虐待の被害者になった事件については、事情聴取に特別の配慮が必要であることから、「司法面接制度」を導入する動きが最高裁判所と法務省にあります。これは、記憶汚染された子どもの証言のために、えん罪判決が相次いだことを重く見て、アメリカで導入された手法です。児童相談所、警察、検察、裁判で繰り返し同じ質問をされれば記憶が汚染されるだけでなく、被害者の子どもが二次被害を受けることから、関係機関が協力して一度に聴取を完了することとされています。

離婚した夫婦が子の親権や面会の頻度を争う民事裁判でも、裁判所の調査官が未成年の子に直接意思を尋ねることがあります。調査官は適切な質問をしていると思いますが、このような状況で、同居している親を悪くいう子はいません。相手側としては「子が洗脳されている」と不満をつのらせることになります。

子から本心を聞き取ることは困難なことです。