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北海道経済 連載記事

2019年2月号

第107回 供託金制度と日弁連

公職選挙の供託金制度が、被選挙権を侵害しているとの指摘がある。この制度について日本弁護士連合会(日弁連)が明確に反対の立場を示すことに消極的なのは、業界団体内部の「お家事情」があるためではないかと、小林史人弁護士は指摘する。(聞き手=本誌編集部)

日本の公職選挙には「供託金」という制度があります。立候補者に選挙前の供託金寄託を義務付け、一定の得票数に達した場合には供託金を払い戻し、達しなかった場合には没収する制度です。当選の可能性が極めて低い泡沫候補の乱立や、選挙を利用した売名行為を防ぐのが制度の目的とされています。

例えば衆議院議員選挙(選挙区)の場合、供託金は300万円で、有効得票総数の10分の1に達しなければ没収されます。市長選挙(政令指定都市を除く)は100万円で、没収の条件は衆院選と同じです。市議会議員選挙選挙(同)は30万円で、有効投票総数を議員定数で割った数の10分の1に達しなければ没収となります。

供託金没収は珍しいことではありません。旭川市長選挙でも多くの候補が林立したり、政党の支援を受けていない候補が出馬した場合などに、下位の候補が供託金を没収されています。毎回泡沫候補が集まることで有名なのは東京都知事選挙ですが、2016年の選挙では立候補者21人のうち18人が供託金を没収されました。

この供託金制度については、資金力に乏しい人が立候補するのを難しくし、憲法が保障する参政権のうち被選挙権を侵害するものだとの指摘がかねてからあります。2016年には供託金が用意できずに衆院選への立候補を断念した埼玉県内の男性が、供託金制度は憲法違反と主張して国を相手に裁判を起こしました。弁護団の団長はかつて日弁連の会長を務めた宇都宮健児氏で、裁判はいまも東京地裁で続いています。

国際的に見れば、日本の供託金制度は特異です。諸外国にも同様の制度はありますが、金額が低く、払い戻しのハードルも低く設定されています。供託金ではなく、一定数の署名を集めることを立候補の条件としている国もあります。アイルランドと韓国では供託金制度が緩和されましたが、その後、懸念された選挙の混乱は生じていません。

さて、人権を守るためにさまざまな活動を推進している日弁連は、本来なら供託金制度の廃止や改善を求める立場にあるはずです。供託金制度見直しを求める市民団体から、人権救済申し立ても提出されています。しかし、日弁連はこの問題に対して廃止ないし改善の立場を示すことに消極的です。

その背景には、日弁連の会長選挙等の人事をめぐる「お家事情」があるようです。会長ポストは東京にある3弁護士会と大阪弁護士会の間で事実上の「持ち回り」となっており、返還されないという点で供託金よりも被選挙権を大きく侵害する納付金(300万円)制度が存在し、政界よりも激しい派閥人事が行われているのが現実です。予想外の人物の出馬で選挙が混乱してほしくないと願うのは、大政党も弁護士会の大派閥も同じでしょう。

唯一、番狂わせを演じたのが、東京・大阪以外のほとんどの弁護士会の支持を得て2010年に日弁連会長に選ばれた宇都宮氏だということも、この問題をめぐる日弁連の姿勢に影響しているのかもしれません。