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北海道経済 連載記事

2018年10月号

第103回 道内初の「公契約条例」はいま

弁護士が公正な社会を実現するために行っている活動は、訴訟や示談交渉だけではない。今回は小林史人弁護士が会長を務める「旭川ワーキングプア研究会」の活動を紹介する。(聞き手=本誌編集部)

旭川市議会で2016年12月13日に制定された「旭川市における公契約の基本を定める条例」(公契約条例)をご存知でしょうか。一般市民の間ではあまり知名度は高くないかもしれませんが、旭川市議会がこのような条例を道内で初めて制定したことを、市民は自慢していいと思います。

公契約とは、自治体のような公共部門が、建設会社などの民間企業と結ぶ契約のことです。自治体が工事を発注したり、物品を購入する際には、一般競争入札を行うことになっています。価格競争の原理が働き、税金でまかなわれるコストが削減されるのは良いことなのですが、行き過ぎた価格競争のために、契約金額が適正な水準を下回ることがあります。そのしわ寄せを食うのが、立場の弱い末端の労働者です。

こうした状況に関心を持つ労働者団体、学識経験者、弁護士等の有志は「旭川ワーキングプア研究会」を設立し、労組から賃金水準に関するデータを集めたり、この問題に詳しい大学教授を旭川に招いて講演会を開くなどの活動を展開しつつ、旭川市議会に公契約条例の制定を働きかけてきました。市議会もその意義に理解を示し、全会一致で条例案が可決されました。

旭川市の公契約条例は、市に地域内での経済の循環や活性化を図ること、公契約に係る業務に従事する者の適正な労働環境を確保すること、品質及び適正な履行を確保することなどを求める内容です。つまり、過当な価格競争の結果、仕事が市外の業者に流出したり、労働環境や商品・サービスの質が悪影響を受けるのを防ごうという趣旨です。

この公契約条例はいわゆる「理念条例」です。抱える理念は立派でも賃金規制が設けられていないため実効性に乏しいとの指摘はありますが、たとえ理念だけでも条例が制定された意義は大きいと考えています。旭川市に先行して札幌市でも制定に向けた動きがありましたが、僅か1票差で否決されてしまいました。

大切なのは今後、公契約条例にどう実効性を持たせていくかです。公契約条例制定に合わせて「旭川市契約審査委員会条例」が制定され、入札と公契約に係る施策の適正化などを図るため第三者機関を設置することがうたわれています。実際に弁護士、公認会計士、税理士などが参加する契約審査委員会が開かれているものの、残念ながら公共事業の末端労働者の賃金について調査するなどの動きは見えてきません。

旭川ワーキングプア研究会は11月20日18時30分から、勤労者福祉会館(旭川市5条通9丁目)大会議室で公契約条例に関する集会を開催します。有識者によるパネルディスカッションなどを通じて、改めてこの問題への関心を喚起できればと考えています。

弁護士として労働事件に関わっていると、建設現場の最前線にいる労働者の雇用条件の厳しさを実感します。政府の景気拡大策で元請けの経営は好調だと言われていますが、労働者の境遇が上向きになる兆しは見えません。適正な公契約を担保する制度が、一段と重要性を増していると言えるでしょう。