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北海道経済 連載記事

2018年9月号

第102回 量刑を左右するさまざまな要素

同じような被害が生じた複数の事件の裁判でも、事件ごとに判決が言い渡され、量刑が必ずしも同じになるとは限らない。被害者の人数が同数の事件でも、懲役の長さに差が出ることもある。今回は量刑を左右するさまざまな要素について。(聞き手=本誌編集部)

刑事裁判の判決では、有罪か無罪かが判断されるだけでなく、有罪の場合には実刑判決か執行猶予付きか、刑期はどれくらいなのかが判断されます。また、そのような判断に至った理由が述べられます。

量刑に影響する要素としては、まず犯情(被害者との関係、動機、犯行の手段、被害者の人数、被害の程度など)があります。もう一つ重要なのが、犯行の後、被害が補償されたかどうかという点です。例えば、傷害罪の裁判で、加害者が被害者に対して謝罪し、賠償金を払うなどして、被害者との間で示談が既に成立している場合、示談が成立していない場合と比較して量刑は軽くなります。また、同様の犯罪でも、初犯の場合は、量刑は軽く、罪を重ねるごとに重くなっていきます。

入念で計画的な犯行は量刑が重くなり、短絡的で杜撰な犯行は量刑が軽くなるといった見方もありますが、必ずしもそうとは言い切れません。短絡的な犯行の極端な例は通り魔殺人ですが、死刑を含む厳しい判決が言い渡されることがよくあります。

一般的には、被告人を必ず更生させると家族が裁判所に約束する、友人や同僚らが減刑を嘆願するなどの動きをすれば、量刑が軽くなると思われがちですが、これも実際の効果ははっきりしません。次に述べることは実際にあった話です。密漁で起訴された3人の共犯に対する刑事裁判で、それぞれに別々の弁護士が付きました。3人の犯罪への関与の度合い(犯情)は、ほぼ同じでした。1人目の被告人については、老母が裁判所から遠く離れた住所地から、わざわざ足を運んで情状証人として出廷し、「私が身柄引受人となり、必ず立ち直らせます」と証言しました。2人目の被告人については、嘆願書が提出されましたが、情状証人の出廷はありませんでした。3人目の被告人については、嘆願書も情状証人もなく、被告人は担当弁護人に対して非常に不満そうでした。量刑は1人目が最も軽く、3人目が最も重くなりそうですが、実際の判決では3人とも全く同じ量刑でした。老母の証言も嘆願書も量刑には影響しなかったことになります。

多くの裁判に関わってきて感じるのは、裁判官は他の同様の被害の事件とのバランスを重視しているということです。刑事罰を科すことは重大な人権侵害ですから、同じような被害の事件の加害者に、片や軽い罰、片や重い罰といった不公平が生じることは許されません。被害が同じなら量刑も同じにするべきという考え方が強くはたらいていると思われます。

重要なのは犯情と、被害が回復されたかどうかであり、他の要素はそれほど量刑を左右しません。相場から逸脱した量刑を言い渡したとしても、控訴審や上告審で退けられる可能性があります。民事裁判の賠償金や慰謝料を巡る判断についても同じことが言えます。

なお、判決理由では量刑の理由が述べられますが、これは後付けであり、まず量刑を決めてから、もっともらしい理由が付け加えられていると、私は考えています。