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北海道経済 連載記事

2010年12月号

第9回 証拠改ざん事件にみる検察の問題点

郵便不正事件の捜査で、大阪地検特捜部の主任検事が、証拠のフロッピーディスクの日付を改ざんしたとされる事件は、主任検事、特捜部長・副部長の起訴に発展しており、法曹界だけでなく社会全体に強い衝撃を与えた。今回の「辛口法律放談」は、この事件が象徴的に示した、現行制度の問題点について。(聞き手=北海道経済編集部)

事件を担当した大阪地検特捜部の主任検事がFDの日付を改ざんしたのは、そのままの日付では、検察側の描いた事件の筋書きとつじつまが合わないためでした。この不正には驚きましたが、供述調書が検察をはじめとする捜査機関の描いた筋書きに沿った形で作られているとの指摘は今に始まったことではありません。程度の差こそあれ、同じことがどこの検察庁でも行われているとの疑念を抱かずにはいられません。

また、刑事裁判においては、現行法上、厳格な証拠法則が採用されており、供述調書等の書面は、相手方の同意(検察官から証拠請求があった場合は、弁護人の同意)がない限り、証拠として採用されません。ただし、検察官が作成した供述調書は、特別の信用性が認められれば、弁護人の同意がなくても証拠として採用されます。また、検察官手持ち証拠についても、全てが弁護人に開示されるわけではありません。これらの制度は、信用性が吟味されていない一方的な書面を排除するという意味で合理性があるとされていますが、検察側に不利な証拠は、弁護人がその存在を指摘して証拠開示請求しない限り、開示されず、開示されても、検察官の同意を得られなければ、たとえそれが、捜査機関が作成した書面であっても、証拠として採用されません。実際、私にも、証拠開示請求を行って入手した警察官作成の「捜査報告書」の中に、被告人に決定的に有利な内容が記載されていましたが、検察官の同意が得られず証拠採用されなかった経験があります。

現行法は、検察官作成の供述調書は、弁護人の同意なくして証拠採用する一方、検察側にとって不利な証拠の隠蔽を可能とするものとして運用されています。その結果が筋書き通りの供述調書を作成するための無理な取調べと不利な証拠の隠蔽であり、その挙句、行き着いたところが、今回の証拠改ざん事件といえるでしょう。

こんなことを言うと法曹関係者から馬鹿にされるかもしれませんが、刑事裁判においては、真実発見の見地から証拠の制限をするべきではないと思います。有利不利を問わず、全ての証拠を吟味する機会がなければならない、少なくとも捜査機関が作成した書面に検察官が同意を与えないことを許すべきではないと思います。また、筋書き通りの供述調書を作成するための自白強要や事実歪曲等の不正を防ぐためには、取り調べの完全可視化(取調べの全過程を録画・録音しておくこと)の導入の他に方法はありません。一部可視化では、かえって不正の温床となる可能性があるので、完全可視化が重要です。郵便不正事件にしても、厚労省元係長の捜査段階での供述が局長の逮捕につながったわけですが、この元係長は裁判がはじまると「自分の独断の行為」と供述を翻しました。完全可視化の下で元係長の取り調べが行われていれば、捜査の方向は全く違うものになっていたかもしれません。

さて、逮捕・起訴された大阪地検特捜部の元検察官3人(いずれも懲戒免職)のうち、FDを改ざんしたとされる主任検事は犯行を認めていますが、犯人隠避の容疑がかけられている元部長、元副部長は容疑を否認しています。元主任検事の供述以外に有力な証拠に乏しいらしいですが、個人的には、部長・副部長の検事正や次席検事に対する報告内容と、これに対する検事正や次席検事の指示内容に注目しています。辞職で幕引きにしてうやむやにすることだけはやめて欲しい。裁判官も最高検の捜査を過信せず、関係者の証言を吟味するのみならず、取調べの過程を厳密に検証してもらいたいと思います。最高検は、元副部長の申出にもかかわらず、の取調べの可視化を行っていませんので。(談)