しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第6回 身に覚えのない罪で逮捕されたら

北海道経済 連載記事

2010年9月号

第6回 身に覚えのない罪で逮捕されたら

犯罪と関わりのない市民が、逮捕・起訴される──小説やドラマのなかでしか起こりえないような冤罪が相次いでいる。今回の「辛口法律放談」は、そんな状況に巻き込まれた場合の対処法をアドバイスする。(聞き手=北海道経済編集部)

「もしも身に覚えのない容疑で逮捕されたら、どうすべきか?」── 非現実的な想定に聞こえるかもしれませんが、昨今、誤認逮捕や冤罪のニュースが繰り返し伝えられていることを考えれば、「自分の身にも降りかかるかもしれない状況」ととらえるべきなのかもしれません。

「もし、身に覚えのない犯罪で逮捕されたら、取調べでは黙秘すべき」というのが、現時点で私が最善と考える対処法です。黙秘については、これを勧めるべきではないという意見の弁護士も多いですが、後述のように、起訴されるとほぼ有罪が確定してしまう現在の刑事裁判の現実を考えると、起訴の上、公判を維持するための証拠を与えないという意味で、黙秘が最も効果的と考えるからです。なお、私は、罪を犯した場合にまで黙秘すべきだ言っているのではありません。あくまで「身に覚えのないこと」が大前提です。

容疑をかけられ逮捕された被疑者については、勾留するかどうかの決定が72時間以内に裁判所で下され、その後、原則10日、最長25日間の勾留が行われます。その間、警察官や検察官による取調べが行われ、供述の内容が供述調書にまとめられ、被疑者が起訴されれば、公判において、検察官が供述調書を証拠として採用するよう請求し、大抵の場合、裁判官がこれを採用し、事実認定に用います。

黙秘は憲法が保障する国民の権利の一つですが、犯罪に関わっていないのなら、「私は無関係だ」と警察官や検察官に率直に伝えたほうが良いという意見もあるでしょう。

ではなぜ、取調べに対して黙秘を貫くべきなのでしょうか。それは、密室で行われる取調べでは、被疑者の供述が誘導されたり、調書の内容やニュアンスが巧みに歪められたりする恐れがあるためです。法律知識のない被疑者が些細だと感じる供述内容と調書内容との微妙な違いが、裁判では重大な意味を持つこともありえます。

本来なら公正な調書作成のため、取り調べに弁護士が同席すべきですが、日本では実現していません。日本弁護士連合会が要求している取り調べの可視化(取り調べの全過程の録画)も、検察官や警察官が必要と考える範囲で限定的に実施されているだけです。このような状況では、身に覚えのない容疑で逮捕されれば、黙秘を貫いて証拠を与えないのが最善と言わざるを得ません。また、検察官や警察官の問いかけに答えても、調書に指印・署名さえしなければ、その調書には証拠能力がないので、黙秘したのと同じ効果が得られます。

「仮に調書が被疑者にとり不利な内容で作成されたとしても、裁判で十分に反論できるはず」と考えるのは非現実的です。調書の中で一旦、犯行を認めた場合はもちろん、認めなかった場合でも、公判で被告人や弁護人がどんなに犯行を否定しても、無罪判決が下されることはまずありません。ちなみに、旭川地裁で、最後に無罪判決が出たのは5年前で、この25年間で無罪判決は3件しかありません(起訴件数は減少傾向にあるが年間300件弱)。起訴された時点で有罪がほぼ確定してしまうのが、現在の刑事裁判の現実なのです。

なお、被疑者段階から弁護人を選任でき、警察はその旨、被疑者に伝えなければならないことになっています。資力が50万円以下の人については、被疑者国選弁護人制度も用意されています。不幸にして冤罪で逮捕という事態が実際に起きてしまったら、早い段階から弁護人を選任しアドバイスを得た方が良いでしょう。(談)