しらかば法律事務所TOP 北海道経済 連載記事 > 第5回 法曹のタマゴ、給費制廃止の是非

北海道経済 連載記事

2010年8月号

第5回 法曹のタマゴ、給費制廃止の是非

司法試験の合格者が受けるのが1年間程度の司法修習。現在の司法修習生を最後に給費制が廃止され、来年の修習生からは「無給」となる。今回の「辛口法律放談」は、給費制廃止に潜む問題点について。(聞き手=北海道経済編集部)

前回は新しい司法試験制度の問題点を取り上げましたが、司法試験に合格すればすぐに弁護士や検察官、裁判官になれるわけではありません。司法試験の合格者には、1年間程度、司法修習を受けることが義務付けられています。

司法修習生はまず、全国50カ所の地方裁判所本庁所在地に配属されて実務修習を受け、裁判官、検察官、弁護士の仕事を見ながら、訴状・起訴状・判決文などの書面を作成する練習を積み、裁判実務に必要な知識を蓄えていきます。旭川地方裁判所にも、毎年12人の司法修習生が配属されています(以前は4名でした)。法科大学院(ロースクール)で学ぶ内容がやや学術的、理論的であるのに対し、司法修習では実際の裁判に即した内容を学びます。

実務修習に続いて埼玉県和光市の司法研修所で2ヵ月間の集合修習が行われます。最後に試験が行われ(第二回試験。司法試験が第一回試験との位置づけからこのように呼ばれています。)、合格すれば法曹資格が与えられます。以前は、ほとんど不合格者のいない試験でしたが、司法試験の合格者増のあおりからか、近時は受験者の6~7%が不合格となっています。

これまで司法修習生には大学卒の国家公務員に準じる額の給与が毎月給付されていました(給費制)。ところが、現在の修習生を最後に、この給費制が廃止されます。修習生は約1年間の修習期間中、自らの蓄えで生活することになります。司法修習生の増加、政府の財政難、裁判実務を教えるだけでなく生活費まで負担するのは甘すぎるといった批判が廃止の背景にあるようです。

司法修習生は最高裁判所から辞令を受け取って修習先に赴任する、国家公務員に準じる立場であり、修習期間中は兼業が禁止されています。実家の近くに配属されない限り、アパートも借りなければなりません。知らない土地に飛ばしておきながら、生活の面倒は見ない、共済にも加入できない、兼業もするな、というのは、司法修習生の立場からみてあまりに過酷であるように思えます。

司法修習生に無利子で生活費を貸し付ける制度はありますが(貸与制)、前回も取り上げたとおり、ロースクールに通うためにも多額の学費がかかります。学費と司法修習中の生活費を合わせれば、開業前に一千万円を越える規模の借金を抱える状況も考えられます。しかも、この業界の競争激化の結果、弁護士の収入は減少するとみられています。依頼者の破産手続を請け負う立場にある弁護士が、自ら破産するケースが今後発生するかもしれません。

国家試験に合格したあと、実務に必要な知識や技術を蓄えるという点で、司法修習生は研修医に似ています。10年ほど前に研修医の劣悪な労働環境が社会問題化し、給与の大幅な増加や労働時間の適正化が行われたのと対照的に、司法修習生が有給から無給になるというのも奇妙な話です。

給費制の廃止は、ロースクールを中心とする法曹養成制度と同様、法曹になるために必要な金銭的負担の増加につながります。このままでは、法廷にいる裁判官、検察官、弁護士の大半が裕福な家庭の出身者に占められてしまうかもしれません。全国各地の弁護士会では、このような状況を問題視し、司法修習生に対する給費制維持を求める会長声明を相次いで発表しており、旭川弁護士会でも本年6月25日に同様の声明を発表しました。もっとも、給費制廃止は平成16年の法改正で決められたことであり、それを今頃になって騒ぎ出すのは、遅きに失するとの批判を免れないでしょう。(談)