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北海道経済 連載記事

2010年7月号

第4回 弁護士増加はいいけれど…

「法科大学院」が設立されてから6年。弁護士など法律の専門家を養成する仕組みは大きく様変わりした。今回の「辛口法律放談」は、やや趣向を変えて、新制度が弁護士の仕事に与えた影響について。(聞き手=北海道経済編集部)

従来の法曹養成システムは、主に大学の法学部で法律を勉強した人が、一発勝負の司法試験に挑む仕組みでした。競争率は40倍強(受験回数3回以内の受験者でも20倍程度)で、大学を卒業して定職につかずに受験を重ねる例も見られました(私もそうでした)。新しい制度では基本的に、法科大学院で2~3年法律を専門的に学んでから司法試験に挑みます。競争率は今のところ4倍程度ですが、「大学院卒業後5年以内に3回」という受験回数制限が設けられています。法科大学院は約3割の学生を法学部以外の卒業生や社会人から募集するとの目標が設定されているので、人材の幅も広がるでしょう。

新制度の欠点は、法科大学院の学費が授業料だけでも国立で年間80万円以上、私立だと約130万~230万円もかかり、特に地方在住者にとっては、経済的な負担が重いということです。経済的な理由から、法曹への道を断念している者も多いと思われます。昔なら、本を買って必死に勉強しさえすれば、貧しくても、地方在住でも、合格する希望がありましたが、今後は法曹の大半が大都市近辺の富裕層の子によって占められるかもしれません。新制度は、富裕層にとっては法曹への道を広き門とする制度と言えます。公平の観点からすれば、従来の一発勝負の司法試験の方が優れています。

質的な変化と同時に、量的な変化も起こっています。それは、弁護士の数の急増です。弁護士登録者数は、私が登録した2001年には約1万8000人だったのが、現在は約2万9000人。旭川管内でも30人だったのが50人に増加しました。旭川管内は、人口減少地域であり、今後、ニーズの拡大はあまり期待できません。

弁護士の増加は、社会のさまざまなトラブルを明確なルールに沿って解決することにもつながるため、基本的には好ましいことだと思います。問題はペースが速すぎるということです。現在、日弁連は、登録後5年を経過していない弁護士が約3分の1を占めており、年齢構成がいびつな業界団体となっています。

法科大学院を卒業し、司法試験に合格することは、法曹としてのスタートラインに過ぎません。これまで、若手の弁護士は、既存の法律事務所にいわゆるイソ弁、ノキ弁として所属し、間近で先輩弁護士の働きぶりを見ながら法律実務を学んできました。ところが、弁護士が急増した結果、すべての若手弁護士をイソ弁、ノキ弁として弁護士業界が受け入れるのは難しい状況になっています。法科大学院で学んだものの、それを実務に生かす方法を知らない弁護士が、今後増えていくかもしれません。

率直に言って、弁護士の仕事には、それなりの報酬が見込めるものと、報酬は見込めないが社会的意義が高いものがあります。両方の仕事を手がけることで、弁護士は現実と理想を両立してきました。ところが、弁護士が急増すれば、生活・経営のため報酬の見込める仕事の奪い合いになり、社会的意義が高い仕事に向き合う余裕はなくなります。社会正義を守るはずの弁護士が増えすぎた結果、皮肉にも社会正義を守ることが難しくなっているのです。

最後に、競争激化を反映して、大都市圏の弁護士がテレビCMなどを活用し、全国的な規模で仕事を引き受けることが増えています。たしかに大都市圏の弁護士が処理するに適している事件もありますが、その数は僅かです。むしろ、事件処理の機動性に優れ、費用も割安な地元の弁護士に、まずは相談に行かれることをお勧めします。(談)