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世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』

第98杯「続・住めば都」 

お祭りの屋台の金魚すくいでゲットした金魚1匹を水槽に入れて飼っていたことがあります。小石を入れ、水草を植え、酸欠にならないようにエアレーションを設置しました。金魚は順調に育ち、何年も経過しました。金魚は水槽の中で旋回することができなくなるほど大きくなり、身動きができず、じっとしているようになりました。水槽の水は濁り、金魚の姿が確認できなくなるほど濁りました。それでも金魚は健在で弱るということはなかったと思います。あまりに濁って、金魚に気の毒だったので、水槽を大きなものに取り換えることにし、水も全面的に入れ替えることにしました。もちろん水道水は使わず、万全を期して雨水を使用しました。そうやって、金魚を引っ越しさせたところ、金魚はあっという間に衰弱して死んでしまったのです。金魚にとっては、もとの小さく狭い水槽、濁った水の方が良かったのです。考えてみれば外敵はおらず、食べものもいっぱいあるので当然と言えば当然です。小さく狭い水槽、水が濁っていても金魚にとっては「住めば都」だったのです。引っ越しと水の入れ替えは余計なお世話だったと反省しました。江戸時代の狂歌に「白河の清きに魚も棲みかねて、元の濁りの田沼恋しき」というものがあります。白河藩の藩主だった松平定信が老中となって行った寛政の改革、質素・倹約・クリーンな政治より、汚職や腐敗があったかもしれないが、自由な経済活動、華やかな文化が花開いた田沼意次が老中であった時代の方が民衆にとっては暮らしやすかったのです。金魚も人間もクリーンすぎる環境では、健康に生きられないようにできているということです。

同じようなことは植物についてもいえます。キンカンを食べた後に残ったタネを取っておいて畑にまいたら、何本か芽が出てきたので、鉢に植え替えて室内で育てたところ、2本生き残り、3年たってかなり成長し、1つの鉢では窮屈な状態になりました。そろそろ花が咲いて実をつけるかなと思い、環境を良くしようと思って、株分けして1本ずつ、大きい鉢に植え替えたところ、2本とも上の方から枯れてきて、懸命の看護もむなしく半年くらいで2本とも枯れてしまいました。狭くても2本一緒が良かったのでしょうか。2本のキンカンにとっては、2本一緒の狭い鉢が「住めば都」だったのです。植え替えたのは余計なお世話だったと深く反省しました。