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世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』

第54杯「情状弁護」

刑事弁護には、犯罪事実を否認して有罪・無罪を争うものと、犯罪事実を認めた上で(自白)、情状酌量して刑の減軽を求めるものとがあります。前者がテレビでよく見かけるもので、刑事弁護といえば、こちらが通常のイメージですが、実務では後者が圧倒的に多く、「情状弁護」と呼ばれています。情状弁護の場合、「被告人は十分に反省している」とか、「適切な監督者がいて必ず更生させる」などと主張します。被告人本人の反省文や謝罪文、事件関係者による減刑嘆願書を裁判で証拠提出したり、被告人の親族に裁判に証人として出廷してもらい、被告人の監督を証言してもらったりします(情状証人)。情状弁護は、犯罪事実を争わないので、否認事件と比べて検察官の対応が厳しくなく、弁護人も精神的に楽なのですが、情状弁護の効果は実感できず、情状弁護したことで刑が減軽されているのかはわかりません。次のようなことがありました。被告人3人の共犯事件で、それぞれに弁護人が選任され、犯罪事実に争いがないので、3人一緒に裁判が行われました。裁判では、3人の弁護士が、三者三様の情状弁護を行いました。被告人質問以外に何をするかですが、1人は何もしない、1人は親族から嘆願書を郵送してもらって提出、1人は遠方から情状証人を連れてきて、証人尋問を実施しました。

何もしてもらえなかった被告人は、「言ってくれれば俺も情状証人の1人や2人連れてこれたのに」と、残念がっており、とても不満そうでした。情状証人を連れてきて尋問を実施してもらった被告人は満足そうでしたが、情状証人である被告人の親御さんは高齢で、裁判所まで来るのに車で5時間以上も移動しており、当然、交通費も出ませんので、負担が重く、とても大変そうでした。で、判決はどうであったかというと、3人とも全く同じ量刑で判決が言い渡されました。情状弁護をしてもしなくても結果は同じで、せっかく情状証人を連れてきて尋問を行ったのに、量刑には反映されず、言わば「くたびれ損」です。

事実関係に争いがない事件の場合、弁護人がどんなに優秀でも、どんなに素晴らしい情状弁護を行っても、裁判官は量刑に不公平がないように判決を言い渡します。同種事案について裁判官や弁護人が違うことによって量刑がまちまちでは、裁かれる側はたまりませんので、上記のようなことが起こるのです。