しらかば法律事務所TOPメディア旭川 連載記事 世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』 > 第51杯「座右の銘」

メディア旭川 連載記事
世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』

第51杯「座右の銘」

「人間万事塞翁が馬」とは古代中国の故事成語で、人生、何が幸不幸につながるか分からないことの例えです。「人間万事塞翁が丙午」とは、丙午の年生まれの母親をモデルにした青島幸男の小説で、直木賞受賞作品です。ぼくも丙午の年(1966年)生まれです。丙午は60年に1回なので、青島幸男の母親は、ぼくの60歳年上で、存命ならば今年112歳です。つまり、現在、生存している丙午の年生まれの人は、日本最高齢に近い数人以外は、1966年生まれということになります(次の丙午は2026年)。

丙午の年に生まれた者は気性が激しく、ことに女性は夫となった男性を早死にさせるという迷信があり、世間一般では丙午の年は出産を控えたので、1966年の出生者は極端に少なく(前年比25%減)、ぼくは生まれたときから少数派でした。しかし、少数だったことが幸いし、高校受験の時には、受験した旭川東高は定員割れ、受験者全員が合格しました。

大学受験の時、社会の選択が地理だったため、法学部をあまり受験することができず、法学部以外も受験して某有名私大にも合格しましたが、地味な中央大学法学部に進みました。この選択は、10人中9人はしないことから、変わり者とされました。

大学4年の時、バブル景気で就職は超売り手市場、皆、希望どおりに内定をもらっていました。そんな中、ぼくは、ろくに勉強していない状態なのに、就職しないで司法浪人することにしました。後で司法試験の難しさを実感して死ぬほど後悔しましたが。しかし、銀行までもが破綻する時代が到来し、就職した会社が無くなる憂き目に遭った者も少なからずいました。ぼくは中央大学に進み、就職せずに司法浪人したので、そのような憂き目に遭わずにすみました。

弁護士登録の時、またまた、少数派の選択をして日本最北の旭川弁護士会に登録しました。当時、「何が悲しくてそんなところに登録するのか」「思いとどまれ」と周囲の多くの人間から言われました。しかし、現在は、弁護士人口が激増し、都会の弁護士ほど競争と生活が厳しい状況です。

ぼくは、丙午生まれで出生時より少数派に属し、少数派の選択をしてきましたが、今のところ正解と思っています。幸不幸は予測できない、何が幸いするか分からない、今辛くても信念を貫けば幸福が舞い降りることもあります(「人間万事塞翁が馬」、ぼくの場合は「人間万事塞翁が丙午」)。