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世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』

第35杯「無理が通れば道理引っ込む」

裁判所では、法の解釈適用により全ての案件において、公平・適正な判断がなされる、と皆さんお考えと思います。裁判所を利用して紛争を解決する場合、当事者は訴えを提起し、裁判において自分が求める結論を基礎づける事実を主張し、証拠を提出します。裁判官は、当事者が提出した証拠により事実を認定し、認定した事実に法律を適用し、結論を出して判決を言い渡すというのが、基本的な流れです。この流れからすると、裁判官は、証拠により事実認定してから結論を出すことになりますが、実際には、まず、裁判官の感覚で公平・適正と思う結論を出し、その後に、結論に適合するように証拠を採用し、事実を認定していると思います。結論を出す際、確立した裁判例のない案件については、裁判官の感覚で結論が左右されることになり、どの裁判官にあたるかによって、結論が180度変わることも有り得ます。家庭裁判所案件、特に、親権者の指定、監護権者の指定(子の引き渡し)、父子関係の確認、子との面接交渉等、認めるか認めないか、オールオアナッシングの結論しか出ない案件は、和解が困難であり、白黒つけるのが困難な案件でも白黒つけなければならず、敗訴した当事者の不公平感・絶望感は甚大です。裁判官の感覚が、世間一般の常識とズレているように見える場合もあります。例えば、妻が子を連れて別居した場合、妻が子を虐待する等、子の身に危険が生じていない限りは、夫から妻に対する子の引き渡しが認められることは、まず、ありません。裁判所が現在の子の監護養育環境に問題がない限り、これを変更しない立場(現状主義)を取っているためです。妻の身勝手な都合で別居した場合でも同じです。夫が自力で子を連れ戻すと妻からの「子の引き渡し」に屈することになり、「未成年者誘拐罪」に問われることすらあります。さらに、夫は妻から婚姻費用(生活費)を請求され、離婚すれば子の親権を喪失してしまいます。子との面会も何かと理由を付けて拒否され、ままなりません。夫にとっては子を連れ去られた時点ですでに手遅れであり、「連れ去った者勝ち」なのが現状です。夫にとっては「履んだり蹴ったり」状態です。この状態が世間一般の常識と合致しているとは思えません。裁判も所詮人間のやることであり、結果として「無理が通れば道理引っ込む」ことになることもあるのです。