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世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』

第23杯「体力と運」

ぼくが11回も受験した司法試験は、択一試験、論文試験、口述試験の3段階で、そのうち天王山といわれていたのが論文試験です。6科目各2問の筆記試験でした。ぼくは論文試験に7回もコマを進め、7回目でやっとクリアしました。論文試験は、真夏の暑い時期に行われ、以前は会場に冷房を入れていなかったので、蒸し風呂状態となり、体調を崩して脱落する人もいました。そのため、東京に住んでいながら受験地を札幌や仙台にして、わざわざ避暑地に出張して受験する人もいました。体力の消耗を防ぐため、論文試験前から会場周辺のホテルに泊まり込む人も多く、論文試験には体力勝負の側面もありました。平成6年度の論文式試験の時は猛烈に暑く、東京会場で体調不良者が続出したため、平成7年度からは会場に冷房が入るようになりました。新司法試験では、5月に論文試験が実施されるようになっています。したがって、体力勝負の側面はある程度解消されました。また、論文試験は、12問中半分はヤマが当たらないと合格しないといわれており、ぼくもヤマを当てるために考査委員の講義に潜り込んで情報収集しました。ヤマの当たり方の程度もありますが、12問中1問問題が違えば、ヤマの当たる人も変わりますから、合格者の顔ぶれもかなり変わるだろうと思います。そういう意味で合格する人はヤマが当たった人であり、運の良い人ということになります。実力があっても、ある程度ヤマが当たらないと合格できません。つまり、運が悪い人は実力があっても合格できません。そういう人を何人も知っています。したがって、試験問題を1問でも知っていれば(他の受験生があまりヤマを張っていない問題の場合は特に)、断然有利です。試験問題を漏えいして模範答案を示したとされる考査委員が話題になっていますが、おそらく、その考査委員は司法試験の受験歴がないのでしょう。受験歴があったら、司法試験の実態を知っているはずなので、そのようなことはできないはずです。このように論文試験はヤマ張りの試験であり、ヤマが当たらないと合格できない、運の占める割合が高い試験でした。司法試験に合格すると司法研修所に入所するのですが、入所初日の所長講話で「司法試験に合格した皆さんは運の良い人」「司法試験に合格しても勘違いしないで謙虚に生活しなさい」といった旨の訓示を受けました。