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世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』

第19杯「あきらめないことが大事」

金額が小さい、その割りには労力が大きい事件は、弁護士が面倒くさがって、適当な理由をつけて受任しなかったり、最初からあきらめてしまうことがあります。例えば、ぼくが12年前に担当し無罪となった刑事事件は、「一時停止後、車を発進させたら横からでてきた車に突っ込まれ、同乗者が亡くなった。略式裁判で罰金10万円と言われた。自分も被害者で納得できないが、支払わなければならないか?」という相談でした。この相談に対しては「争って無罪主張すると裁判に長い時間がかかる上、結局有罪となるから、争わないで支払ったら良いのではないか」と回答する弁護士の方が多いだろうと思います。しかし、ぼくは有罪か無罪か微妙な事案と思い、有罪となる可能性は高いが争うべき事案ではないかと回答しました。相談者の了解を得て、略式裁判に異議を出して正式裁判で無罪主張しました。ぼくのような選択をする弁護士は少ないと思います。支払っても良いと回答するであろう弁護士も有罪か無罪か微妙と思っているはずですが、無罪主張した場合、その後の裁判で長期間多大な労力を費やすことが予想され、国選弁護程度の報酬では割りに合わないことから、無罪主張を回避しているのだと思います。この事件は、結果的には1年半かかって無罪となりましたから、無罪主張するかしないかが勝負の分かれ目でした。もちろん、無罪主張しても、有罪となってしまうことの方が圧倒的に多いのですが、無罪主張すれば、無罪判決が出たのに、労力を惜しんで、あきらめたために有罪となってしまっている事件もそれなりにあるのではないかと思っています。しかし、それでは、えん罪防止のための刑事弁護制度は機能しなくなります。無罪判決を獲得するには、あきらめないで無罪主張することが肝心で、優秀で能力が高い弁護士であっても、あきらめてしまっては無罪判決を獲得することはできません。ぼくは、11回も司法試験を受けておりますので、優秀ではありませんが、あきらめずに努力することには慣れており、自分のポリシーに沿った結論を目指して、採算を度外視し徹底的にしつこくやりますので、たまにうまくいくこともあります。うまくいった時は、テレビや新聞で報道されたり、判例集や法律雑誌に掲載されたりします。優秀でも、労力を惜しんで、あきらめる人は、そのようなことはありません。