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世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』

第18杯「割りの悪い仕事」

ぼくは、司法試験を11回も受けて、やっと合格したので、受験時代は、司法試験に合格して司法修習生になれれば、その後、弁護士になれなくても良いと真面目に思っていました。だから、弁護士になったらこんな仕事をしたいとか、社会で注目される事件や裁判を担当したいとか、金儲けをして良い暮らしをしたいとか、そういうことは受験生活が長くなるにつれて、ほとんど考えなくなりました。結果的には合格して弁護士になれたのですが、それで満足しており、食べていければ良いと思っています。だから、仕事を受けるか否かの判断は、弁護士を入れるべきか否かで、訴訟経済が良いか(儲かるかという意味)は二の次です。割りの悪い仕事でも、受任すれば何とかなりそうだと思ったら受任します。結果的に、割りが悪くて受け手がいない事件の方が、判決をもらった時に報道されています。ぼくが担当した事件で報道されたものの1つに、刑務所の食中毒事件があります。刑務所の受刑者が集団で食中毒に罹患したのですが、ぼくは、受刑者の1人から依頼を受けて、国を相手に損害賠償請求をしました。国を相手取って訴訟することは、大変な労力がかかり、しかも勝訴する確率は極めて低いのですが、当時は、そんなことは知りませんでしたので、ほぼ手弁当で受任しました。よく受任したなと思います。今なら受任しないかも知れません。国も受刑者と経験のない弁護士相手に負けるわけがないと考えたのか、一審(旭川地裁)では本気を出してこなかったように思います。そうしたら、一審では金3万円の支払いを国に支払い命じる判決が出され(平成16年1月)、テレビや新聞で報道されました。先輩弁護士から「おめでとう」と電話がかかってきましたが、ぼく自身は国を相手に勝訴することの意味が分かっていなかったため、達成感がなく、むしろ金3万円という認容額のため、報酬は3000円かなと思ったりしていました。国は控訴し、札幌高裁で審理が行われることになったため、ぼくは御役御免ということになりました。控訴審では、医者を証人にたてるなど国も本気を出してきたため、控訴審を担当された弁護士は大変なご苦労されたと聞いています。控訴審では、国が逆転で勝訴しました。最高裁まで争いましたが、国の勝訴、受刑者の敗訴で終わっています。一審で御役御免となったので、苦労しないで済みました。