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世論遊論 『酒と泪と男と司法試験』

第111杯「アナーキーな国際社会」

ロシアのウクライナ侵攻から1年が経過しました。国際社会を規律する法規範を総称して国際公法といいます。国際公法を適用して紛争を終了できないのでしょうか。

公法とは、公権力と国民の間を規律する法です。憲法や刑法は公法に分類されます。これに対して、民法や商事法等、国民相互間(私人間)を規律する法を私法といいます。国際公法は公法ですが特殊な公法です。国際社会においては、全国家を規律する成文の法典はありませんので、国際慣習や合意(条約)で国家を規律することになります。したがって国際公法とは、国際慣習や合意(条約)のことです。しかし、国際慣習については、そんなものは存在しないと言ってしまえばそれまでだし、条約についても条約当事国でなければ拘束されません。国際連合も一種の条約であり、国際連合に加盟していなければ拘束されません。加盟国に対しても、国際連合は、特に拒否権を持つ常任理事国の意向次第で行動できなくなります。また、拒否権を行使されたら安全保障理事会も機能不全に陥ります。国際司法裁判所(ICJ)は、紛争当事国の賛同が審理開始の前提条件となっています。紛争当事国の合意がなければ審理できないということです。不都合な判決が予想される場合、当該国家は賛同しないでしょう。結局、国際司法裁判所の紛争解決機能も十分に発揮されません。このように国際社会には国内社会における国会や内閣、裁判所に相当する機関がなく、各主権国家の上に立つ公権力が存在しないので、強制力を行使して合法的に紛争を解決することができないのです。その意味で国際社会は、非常にアナーキーな社会といえるでしょう。国際公法が紛争解決機能の低い特殊な公法であるため、ロシアのウクライナ侵攻を終了させられないのです。

国際公法は、特殊な公法であるため、解釈は私法的になります。主権国家は、相互に平等なため、国家間の合意(条約)で規律するしかなく、このことは国民相互間(私人間)は合意(契約)に拘束されることと似ています。民法でいう権利義務の帰属主体である「人」が、国際公法の場合は「国家」に置き換えられます。ぼくは、受験時代、国際公法を選択していましたが、国際公法の解釈は民法的だと理解したのは受験生活の終盤でした。合格者の多数は、こんなことは理解していないでしょう。ぼくも理解する前に合格したかったです。