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北海道経済 連載記事

2018年3月号

第96回 弁護士業界のトップ決める選挙

立法や行政について憲法擁護・人権擁護の立場から発言することが多いのが日本弁護士連合会(日弁連)の会長。2年に一度の会長選挙の投票が2月9日に行われた。今回の「法律放談」は、一般にはなじみの薄いこの日弁連の一大イベントについて。(聞き手=本誌編集部)

この記事の掲載号が発売されるころには結果が出ていますが、日本弁護士連合会の次期会長を決める選挙が行われています。順当にいけば、北海道出身で、東京弁護士会所属の菊地裕太郎氏が新しい会長に選出されるでしょう。対立候補は同じく東京弁護士会所属で、2014年の選挙でも会長に立候補して落選した武内更一氏です。

新会長は全国の弁護士による投票で決められます。当選するには得票総数で最多となるだけでなく、全国に52ある弁護士会のうち3分の1以上で最多得票となる必要があります。すなわち、52弁護士会のうち18会で最多得票とならないと得票総数で最多となっても当選できず再投票となります。得票総数だけで決めると東京の3弁護士会の動向だけで当選者が決まってしまうため、このような仕組みが採用されています。投票率は全体で47%(前回)と低迷しており、投票率2割程度の弁護士会もあります。

会長職は東京の3弁護士会、そして大阪弁護士会の間で事実上の持ち回りとなっており、東京の3弁護士会と大阪弁護士会の主流派閥の水面下の話し合いで人選が事実上決まってしまいます。そのため、日弁連の会長選挙は出来レースで盛り上がりに欠けることが多かったのですが、こうした状況に異を唱えたのが2010年の会長選挙に出馬した宇都宮健児氏でした。得票数では東京の3弁護士会の主流派閥が推した日弁連元副会長に及ばなかったものの、52弁護士会のうち42会から支持を獲得して再投票に持ち込み、再投票では得票数でも上回って当選しました。宇都宮氏は主流派閥の後ろ盾はなかったのですが、地方の弁護士会の支持を受けて会長に選ばれたわけです。なお、1回の投票で会長が決まらないのは異例でした。また、会長職を2期務めた人はいなかったと思いますが、宇都宮氏は2012年の選挙に出馬して2選を目指しました。再び接戦となり、3回目の投票で主流派閥が推した山岸憲司氏が当選しました。

山岸氏の勝因は、それまで会長に近い人物を充てることが多かった事務総長職を地方の弁護士会に提供することで、地方の弁護士会からの支持を増やしたことです。これにより「3分の1以上」の条件をクリアしました。

宇都宮氏が絡んだときは日弁連の会長選挙が社会の注目を少し集めましたが、今回の選挙でこうした波乱は起きそうにありません。東京の3弁護士会の主流派閥による根回しがうまく行っているということでしょう。

なお、一方が左寄り、もう一方が右寄りといったイデオロギー上の対立はありません。日弁連全体がどちらかといえば左寄りですから、あえて言えば菊地氏が普通の左、武内氏がさらに左といったところでしょう。

日弁連の意思決定は理事会で行われ、会長は理事会の議長を務めます。理事の数も登録弁護士数の多い弁護士会に多く割り振られるため、ここでも東京の存在感は圧倒的であり、旭川を含む地方の弁護士会がうるさいことを言っても、結局、多数決で負けてしまうので、発言力は限られていると言って良いでしょう。