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北海道経済 連載記事

2017年7月号

第88回 弁護士の出張とJRの経営問題

旭川弁護士会は管轄区域が四国全域に長崎県を加えた面積と同程度と広大なため、所属する弁護士は移動に多くの時間を費やす。今回の法律放談では弁護士の出張とJR北海道の経営問題について考える。(聞き手=本誌編集部)

稚内市内に法律事務所が開設されたことから、昔よりも回数は減っていますが、旭川市内に事務所を構える弁護士が、約250㌔離れた旭川地裁稚内支部や稚内警察署まで出向くことがあります。とくに刑事事件の被疑者が犯行を否認している場合、その命運は弁護士が提供するサポートに大きく左右されることもありますから、可能な限り足を運びます。

例えば接見(被疑者との面会のこと)の場合、時間の都合さえ合えば、私は被疑者が留置されている稚内までJR北海道の特急列車で行くことにしています。朝9時の列車に乗り、午後1時前に到着。接見などを終えて午後5時台の上り列車に乗り、夜9時台に旭川に戻ってくるというパターンです。つまり稚内での接見だけで1日がほぼ終わってしまいます。列車内に持ち込んだパソコンで文書作業でもできれば時間を有効に使えるのですが、旭川│稚内間は線路の状況が悪いのか他の路線に比べて揺れが大きく、パソコンの画面をしばらく見つめていると乗り物酔いで気分が悪くなって仕事になりません。

現在、旭川と稚内を結ぶ特急列車は1日3往復だけです。開廷時間などの都合でJRが利用できず、車を運転して約4時間かけて行かなければならないことも当然あります。車なら午前中に手持ちの事件の仕事を進めて、昼ごろに出発し、夕方4時ころに稚内に到着して接見などの用事を済ませ、夜10時ごろに旭川に帰ってくるというパターンです。簡易裁判所や家裁出張所が設置されている天塩や中頓別、警察署のある枝幸のように、JRという選択肢が最初からない地域もあります。

近年、JR北海道の経営悪化に関連して、留萌線の留萌│増毛間のような典型的ローカル線の廃止に続き、赤字が深刻な宗谷本線、石北本線などについても経営見直しの是非が盛んに論議されるようになっています。仮に宗谷本線が全線、または一部廃止されれば、移動手段は車に限定されます。冬期間の猛吹雪や凍結路面の時は命がけの移動と言っても過言ではありません。

なぜJR北海道の経営が悪化するかといえば、突き詰めて言えば札幌一極集中の結果、道内の他の地域の人口が減り、同時に高齢化も進んでいるためです。その影響は司法にも及んでおり、最近、旭川地検の留萌支部が非常駐となりました。通常時は職員が旭川地検に勤務し、必要に応じて留萌まで出張する体制です。人口の減少と高齢化の結果、事件数が減少し、人件費の削減を迫られている行政は、従来の体制で留萌支部を維持しておく必要はないと判断したのでしょう。

旭川地裁が管轄する地域全体でみても、たしかに事件は減っています。民事事件は、まだ過払い訴訟が少なかったころと同程度の件数であり、破産事件は多かったころの30%程度に減少しました。刑事事件も2016年度は237件で2003年ころの半分に減りました。景気や治安が良くなったとすれば歓迎すべきでしょうが、そのような実感はありません。このペースで事件減少が続けば、道内の地裁は札幌だけで十分であるとして、旭川地裁を札幌地裁の支部とする旭川地裁の「本庁から支部への格下げ」の問題が現実味を帯びてくると思います。